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「育児体験」を社内制度に。男性の育休取得率を上げる体験型研修を紹介

育児・介護休業法の改正により、男性の育休取得を進める動きが加速している。企業は何をすればよいのか。本記事では「育児体験」を中心にした体験型研修サービスと導入企業の事例を紹介する。

男性の育休取得希望は増えるも、取得率は10%台

若い世代を中心に、育児休暇(以下、育休)を取得したいと考える男性が増えている。パーソルキャリア株式会社が2021年10月、20~59歳の男性555名に行ったアンケート調査によると、「子どもができた場合に育休を取得したいか」との問いに、「取得したい」と回答した人の割合は、Z世代と呼ばれる20歳~24歳では84.6%、ミレニアル世代といわれる25歳~39歳では80.1%といずれも8割を超えた。それ以上(40~59歳)の世代では69.6%であり、若い世代ほど仕事も家庭を含むプライベートも大切にしたいと考える傾向があることがわかる。

画像はパーソルキャリア株式会社のWebサイトより

しかし、日本における男性の育休取得率はいまだ低く、厚生労働省の「令和3年度雇用均等基本調査」によると、女性の85.1%に比べわずか13.97%に留まっている。

一方、海外では男性の育休取得に理解のある国も多く、「パパ・クオータ制度」を導入しているノルウェーでは約9割の男性が育休を取得まで上がった。パパ・クオータ制度とは、育休の一定期間を父親に割り当てる制度のことだ。パパ・クオータは母親が代わりに取得することはできず、父親が使用しなければその権利は没収され、家庭全体の育休期間が短縮されてしまう制度設計になっている。

また、かつては3%台の取得率に低迷していたドイツでも、2007年に「両親手当」を導入してから取得率が上昇し、2014年に生まれた子に対しては34.2%まで上がった。両親手当とは、育児のために休業もしくは部分休業する親に対し、子の出生前の手取り所得の67%(月額300~1800ユーロまで)を支給するもの。一家の稼ぎ手であることが多い父親の育休取得の困難さを解消するための政策だ。

日本政府でも、男性の育休取得率を上げるべく、「少子化社会対策大綱」では2025年までに30%に引き上げる目標を設定。2021年には育児・介護休業法を改正した。次にその改正内容のポイントを解説したい。

育休の分割取得が可能に。大企業には取得率の公表義務も

改正した育児・介護休業法では、男性が職場で育休を取得しやすくなるよう「産後パパ育休」を新たに創設した。「産後パパ育休」では、子どもの出生後8週間以内に4週間まで育休が取得でき、2回に分割して取得することも可能となった。

また、労使協定を締結している場合、事業者との合意があれば、休業中に就業することも認められるようになった。これにより、長期間仕事を離れることができず諦めていた男性社員も、育休が取得しやすくなることだろう。

今回の法改正ではさらに、育休を取得しやすい雇用環境の整備を事業主に義務付けている。具体的には、研修や相談窓口の設置などの選択肢から選んで実施する必要がある。従業員またはその配偶者が妊娠・出産の申し出をした際には、個別に育休制度等の周知をするとともに、育休取得の意向を確認することも義務付けている。また2023年4月からは、1000人以上の従業員を抱える企業には育休の取得状況を公表することが義務化された。

しかし実際のところ、何に取り組めば、男性の育休取得率が向上するのかわからないという企業も少なくないだろう。従業員側も、育休のイメージが湧かないために、取得を躊躇してしまう人も多いのではないか。そこで、「育児体験」にフォーカスした体験型研修サービスと、実際に体験型研修を社内制度として取り入れている先進企業の事例を紹介する。自社での取り組みの参考にしてはいかがだろうか。

育児体験を組み込んだ体験型研修サービス

育児・介護休業法の改正に伴い、男性の育休取得率向上を支援するサービスが出始めている。ここでは特に、男性従業員が育児を具体的にイメージできるような育児体験を組み込んだ体験型研修サービスを紹介する。

【企業向けサービス①】江崎グリコ株式会社・ユニ・チャーム株式会社「企業向け両親学級『みんなの育休研修』」

粉ミルク・液体ミルクを製造する江崎グリコと、ベビー用おむつを製造するユニ・チャームは、共同で企業向けのオリジナル両親学校「みんなの育休研修」を無償で提供している。対象は企業や自治体の産休・育休の取得予定者。栄養士や子育てアドバイザーがセミナー形式で、男性が育休を取ることのメリット、家事育児の分担方法、授乳・睡眠・排泄のやり方などを指南する。また、実際にミルクの作り方、おむつの替え方の体験も行う。

企業向け両親学級 「みんなの育休研修」の開催風景(画像は江崎グリコ株式会社のWebサイトより)

セミナーの中では、実際に育休を取得した江崎グリコの男性従業員の体験談を聞くこともできる。男女ともに参加できるが、より男性が育児をイメージできるような内容になっている。実際に受講した男性従業員からは「おむつ替えや授乳など、育児で何をしたらいいのかイメージがつくようになった」(30~34歳男性)との感想が寄せられている。

【企業向けサービス②】スリール株式会社「育ボスブートキャンプ」

人材育成事業を手掛けるスリールでは、「育ボスブートキャンプ(イクボス研修)」という管理職向けの研修を企業に提供している。「イクボス」とは、部下の育児参加やワークライフバランスに理解のある上司(経営者・管理職)のことを指す。イクボス研修は、管理職がイクボスになるために、育児中の社員の立場になる体験を通して自分自身のマネジメントを振り返る体現型の研修である。

具体的には、管理職が時短で仕事を切り上げ、自身の子どものお迎え、食事づくり、子どもとの団らんといった一連の育児を一定期間実践。その後、育児体験を通して感じた自身のマネジメントの振り返りワークショップや、メンバーとの対話などのプログラムが用意されている。

「育ボスブートキャンプ(イクボス研修)」のプログラムの一例(画像はスリール株式会社のプレスリリースより)

管理者自身が育児を実際に体験することで、子育て中の従業員の気持ちがわかるようになり、多様な人材が活躍できるマネジメントの構築を目指すものだ。育児と仕事の両立に理解の深いイクボスが職場にいれば、部下の男性従業員も育休が取得しやすくなるだろう。2022年1月からオンライン版もスタートしている。

体験型研修で男性育休取得に取り組む企業の事例

続いて、実際に体験型研修を取り入れ、男性の育休取得率向上に取り組む企業の事例を紹介する。いずれもワーパパ、ワーママの体験を通してその大変さを共有し、マネジメントや職場環境づくりに生かしているところがポイントだ。

【企業事例③】パーソルキャリア株式会社「男性育休推進 ワーパパ体験プロジェクト」

男性従業員の育休取得の期間を1カ月以上にすることを推奨しているパーソルキャリア。同社では、男性育休の取得推進施策の第一弾として、上記のスリールが提供する「育ボスブートキャンプ オンライン版」を導入し、「男性育休推進 ワーパパ体験プロジェクト」を2022年1月~2月に実施した。

実施期間は約2週間で、プロジェクトに参加する管理職は期間中17時に通常業務を終えてプログラムに参加。子どもがいる管理職は「パパ管理職」として、自身の家庭で一番忙しい平日夜の家事育児をワンオペで体験する。育児経験のない管理職は「チャレンジ管理職」として、オンライン上で「パパ管理職」の家事育児の様子を見守りながら、その子どもに向けて絵本を読んだり、宿題をみたりと、「パパ管理職」の育児をサポートしながら育児を体験する。

画像はパーソルキャリア株式会社のWebサイトより

プログラムを通して、「パパ管理職」は育児体験の大変さがわかり、「チャレンジ管理職」は、育児を疑似体験することができる。あわせて、ワーパパ・ワーママ社員実態ヒアリングや振り返り会などを行い、それぞれの体験を共有することで気付きや理解を深めていく。同社は、このプロジェクトを通して「管理者自身が、組織全体での働き方改善や仕事の仕組み化の必要性を理解し、今後の自身の働き方やマネジメントを見直す機会」につなげたい考えだ。

実際に、スリールのインタビューに対し、パーソルキャリア広報部の中西真弓さんは「プロジェクト参加者は、業務の生産性を上げるために隙間タスクリストを作ったり、17時以降の打ち合わせの常設をやめたりと現場レベルでの変化は起きています」と語っている。

【企業事例④】株式会社ランクアップ「先輩ママ社員の家で育児を手伝う『育児体験制度』」

化粧品の開発・販売を行うランクアップでは、2022年4月から「育児体験制度」を試験導入している。同社の育児体験制度は、希望する若手社員が子育て中の従業員の家庭に同行し、リモートワーク中のママ社員に代わって子どもの相手や世話をするという内容だ。

画像は株式会社ランクアップのプレスリリースより

具体的には、若手社員が先輩ママ社員とともに、保育園へお迎えに行き、夕飯の買い物、洗濯や片づけといった家事の手伝い、子どもにご飯を食べさせる、子どもの相手をするなどの育児体験を行う。この制度により、自身が将来行うかもしれない育児を体験できるだけでなく、育児中の従業員への理解が進むことを期待している。

同社の社員は8割が女性であり、うち半数は子育てをしながら仕事を行うママ社員。今まで育休・産休を取得した社員の復職率は100%を誇っている。今後はさらに、性別を問わず育児をしながら働くことや、その理解を深めることで若手社員のキャリア教育を支援していきたいと考えているという。

男性の育休取得率向上は経営戦略のひとつ

育児・介護休業法の改正により、1000人以上の従業員が在籍する企業では、今後、育休の取得率の公表が求められる。企業のブランドイメージの維持・向上のためにも、男性の育休取得率を上げるための施策は必須になっていくだろう。

また、男性従業員が育休を取得しプライベートの時間を充実させることは、ウェルビーイングにつながり、復帰後の仕事の活力となることも考えられる。ダイバーシティ&インクルージョンの観点からも、育休取得率の男女の差を解消していくことは重要な課題といえる。

男性の育休取得率向上はもはや欠かせない経営戦略のひとつであり、ひいては子どもを産みやすく育てやすい社会の実現に貢献するものだ。国が設定した「2025年までに男性育休取得率30%」という目標を早期に達成する未来に期待したい。

この記事を書いた人:Yuichi Ota