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子ども・若者のキャリア形成をどう支援する? 家庭と企業にできること

働き方が多様化し、キャリア形成の重要性が増している。学校教育でもキャリア教育の推進が掲げられるなか、家庭や企業はどのようにサポートできるのか。先行事例とあわせて紹介する。

学校現場で本格的なキャリア教育が始動

ワークスタイルが多様化してきたここ数年、自身のキャリア観や働き方について考えを巡らせた人は少なくないだろう。株式会社ビズリーチが2021年3月〜4月に実施した「キャリア観・転職活動に関するアンケート」では、98.5%の人が「主体的なキャリア形成が重要」と感じていることがわかっている。

そして、キャリア形成がより重視されるようになったのは大人だけではない。2020年4月から、小学校・中学校・高等学校を通じた継続的なキャリア形成ツールとして「キャリア・パスポート」が導入されたことをご存じだろうか。キャリア・パスポートとは、「小学校から高等学校までの特別活動をはじめとしたキャリア教育に関わる活動について、学びのプロセスを記述し振り返ることができるポートフォリオ的な教材」のことを言う。

キャリア・パスポートの特徴

・小学校から高等学校まで、12年間のキャリア教育に関わる活動を記録し、蓄積する。
・学校、家庭、地域における学び(教科学習・教科外活動・学校外の活動)という三つの視点を入れる。
・生徒自らが記入することで、自己評価スキルを向上させる。

これまでも様々な形でキャリア教育は行われてきたが、文部科学省はキャリア・パスポートの目的を、「子どもたちが自らの学習状況やキャリア形成を見通したり、振り返ったりして、自己評価を行うとともに、主体的に学びに向かう力を育み、自己実現につなぐ」こととしている。

このように、学校で子どもたちのキャリア教育が推進されるなか、家庭や企業はどのような役割を担っていけるのだろうか。ここでは、家庭内におけるキャリア教育の考え方、そして子どもの職業観・キャリア観育成を積極的にサポートする企業の取り組みを紹介する。

家庭内で行うキャリア教育

テレワークなど多様な働き方が広がり、「職住完全分離」から「職住近接」へと変化している家庭は少なくないだろう。親が働く姿を見る機会が増えた結果、子どもたちが「働くこと」をより身近に感じられるようになり、将来のイメージを描きやすくなっている。

子どもにとって親は、最も身近な「社会人」との接点と言える。普段の何気ない会話のなかに盛り込まれる、「どんな仕事をしているのか」「働いていて楽しいことや大変なこと」といったトピックは、子どもの職業観・キャリア観形成のヒントになり得る。

文部科学省は、キャリア教育を「将来、社会的・職業的に自立し、社会の中で自分の役割を果たしながら、自分らしい生き方を実現するための力」を育むものとしている。ここにある「社会的自立」も、工夫次第では家庭内で育むことができるだろう。例えば、家の「お手伝い」もその一つだ。家族の一員として役割や仕事を与えられると、そこに「責任」が生まれ、任務の達成により自己肯定感が育まれると考えられている。

次世代のキャリア形成を支援する企業・団体の事例

持続可能な社会の実現のために、あるいは地域への貢献活動の一環として、次世代のキャリア形成支援に取り組む企業や団体も見られる。ここでは、そのなかから4つの事例を紹介したい。

1. 株式会社ファーストリテイリング

株式会社ユニクロや株式会社ジーユーを傘下に持つファーストリテイリングは、コミュニティエンゲージメントの目標の一つとして、未来を担う子どもたちや若者への支援を掲げている。その中心となるのは教育支援や社会進出支援であり、国内外を問わず継続的に取り組んでいる。

職場体験
全国のユニクロやジーユーの店舗で、小学生・中学生・高校生を対象に店舗業務体験を実施。参加者は、接客マナーやコミュニケーションスキル、課題解決能力のほか、生きる力や社会の一員としての自立心を学ぶことができる。2020年度の受け入れ実績は、178校、686人に及ぶ。

奨学金事業
世界トップレベルにおける学びの支援を通して、グローバルに活躍し、未来を創る次世代のリーダーを育成している。具体的には、私費留学する日本人学生に対して奨学金を給付。また、留学期間中にデザイナーと一緒に服を開発したり、特別講座(グローバル経営、インターネットビジネスなど)を受けたりする、インターンシッププログラムも提供している。

2. スターバックス

スターバックスは創業初期より、「つながりの力で、想いをアクションに変えていく」を体現すべく、「人」「地球」「コミュニティ」を尊重した活動を実践しつづけている。活動内容は多岐にわたっており、社会の持続的な発展に貢献する企業の代表例と言えるだろう。

100,000 Opportunities Initiative
2015年にスターバックスの主導で設立した、米国を代表する企業が加盟する共同イニシアチブ。若年層と雇用側を有意義にマッチングさせるための道筋をつくり、10万人の前途ある若者の雇用実現を掲げ、すでにその目標を達成している。 2020年にはパンデミックなどによる社会不安を背景に、The Hire Opportunity Coalitionとして再スタート。2025年までに100万人の若者の雇用創出を目指している。

ユース・コネクション
スターバックスでは、若い世代の夢やリーダーシップを育む取り組みとして日本全国の店舗で職場体験を行っており、1万人以上の中学生が参加している。2016〜2018年の夏には、高校生を対象に、自分らしいリーダーシップを育むための4日間のプログラム「ユース・コネクション」を実施。参加者はチームになり、地域を明るくするプロジェクトを自ら企画・開催するという体験を通し、コミュニケーション力や発想力、責任感や使命感などそれぞれの強みを生かしたリーダーシップの形があることを学んだ。全国30都道府県235店舗で実施され、のべ3500人の高校生が参加したという。


3. 日本マイクロソフト株式会社

日本マイクロソフトは全世界的な取り組みとして、就労支援プロジェクト「Global Skills Initiative」を実施している。幅広い分野のNPOなどと連携することで、コロナ禍で就労・雇用に影響を受けた人たちのスキルアップと雇用可能性の拡大を目指す。

・若者TECHプロジェクト
Global Skills Initiativeの一環として、日本マイクロソフトがNPOと協働で取り組む就労支援プロジェクト。「若者支援とICT学習の掛け算」を特徴とする。NPOなどで行われている支援活動に ICT 学習を組み込み、その学びを通して若者の就労につなげることを目的としている。雇用の創出だけではなく、ICT学習を通した自己肯定感や自己有用感の向上、21 世紀型スキルや社会人基礎力の獲得なども重視している。

4. IIDA(International Interior Design Association:国際インテリアデザイン協会)

IIDAは、58カ国で1万5000人以上のメンバーを擁する、グローバルなインテリアデザイン協会だ。全世界に広がるネットワークを通して、インテリアデザインの専門家、業界の関係者、教育者、学生、企業およびそのクライアントをサポートする活動を行っている。

・IIDA Student Mentoring Program
インテリアデザイン業界で、最も精力的なメンタリングプログラムの一つ。毎年開催しているイベントには、全米から500人以上の学生と、インテリアデザインの専門家、メーカーの代表、ディーラー、教育者など、インテリアデザイン業界で働くプロフェッショナルが参加する。学生とプロフェッショナルがペアになって行うため、学生は業界で活躍するためのアドバイスを受けたり、コネクションを得たりすることも可能。若いデザイナーに刺激を与えると同時に、将来の雇用を生み出す場としての役割も期待されている。

ポジティブな職業観・キャリア観を育むために

様々な社会変化に伴って、将来の予測が困難な時代となり、キャリア形成においても流動的な変化が見られる。そんななか、次世代を担う子どもや若者のキャリア形成支援に対し、どのようにして関わっていけばよいのだろうか。職業観・キャリア観形成に必要な目標設定や学習をサポートし、ポジティブな環境をつくるうえでは、学校や家庭だけではなく企業が果たすべき役割も大きい。長期的な視点で、継続的に取り組むことが重要だ。

この記事を書いた人:Chinami Ojiri