米国事例に学ぶリモートワークの課題解決法 | 注目サービス「Codi」「Coa」「Krisp」ほか
リモートワークの普及が広がるなか、世界的に「リモート疲れ」が問題となっている。本記事では、リモートワークを快適にする米国のサービス事例を紹介し、課題解決のヒントを探る。
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世界的に加速する「リモート疲れ」
新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、2020年はリモートワークを導入する企業が増加した。それから1年以上が経過し、リモートワークが急激に普及した一方で、世界的な規模で「リモート疲れ」と言うべき状況にあることが明らかになってきた。
Microsoft社が2021年3月に発表した、3万人を超えるワーカーの調査とMicrosoft Teamsなどの利用動向を分析した「2021年版Work Trend Index 」を見てみよう。「The Next Great Disruption Is Hybrid Work ー Are We Ready?(次の大きな革新はハイブリッドな働き方 — そのための準備とは?)」と題されたレポートでは、2020年2月と2021年2月のMicrosoft365のコラボレーションの傾向を比較し、ワーカーの一日におけるデジタル過負荷が大幅に増強したことを報告している。
青色はユーザーがこの1年で会議に費やした時間を、黄色はやり取りしたチャット数を表している。(画像はMicrosoft社の「The Next Great Disruption Is Hybrid Work ー Are We Ready?」より)
具体的に見られるのは、以下のような状況だ。
・Microsoft Teamsの会議に費やされた時間は、世界全体で2.5倍となり、12月の休暇時を除いて増加の一途をたどっている。
・会議の平均時間は10分長く、35分から45分になっている。
・Microsoft Teamsの平均的なユーザーは、1週間あたりのチャット送信数が45%増加し、1人あたりの時間外のチャット送信数が42%増加している。また、1週間あたりのチャット送信数は依然として増加傾向にある。
・2月に送信されたメールの数は、前年の同じ月と比較して406億件増加している。
・Officeドキュメントを使用して仕事をする人が66%増加している。
以前より、長時間にわたる会議やデジタルツールによる過負荷は世界的な課題とされていた。上記の結果からも、その傾向がコロナ禍以後強まっている様子がうかがえる。ちなみに同レポートでは、31カ国3万人を超える調査対象者のうち、54%が疲労を感じていると回答。これは、リモートワークがもたらす「デジタル疲労」によるところも大きいと言えるだろう。
在宅勤務で身体の不調を抱える人も増加傾向に
リモートワークをする人のなかには、自宅でデスクワークできる環境が整っていないなどの理由から身体に不調を覚える人も少なくない。ニチバン株式会社が2021年6月、全国の20代~60代の男女500人を対象に実施した調査でも、以下のような結果が明らかになっている(回答者は体調に変化のない人を除く366人)。
・コロナ禍以前と比べ、「身体の不調が増えた」と感じるリモートワーク経験者は63.2%にのぼった。
・不調の理由を「在宅勤務や在宅生活の影響」だと感じるリモートワーク経験者は57.0%で、非リモートワーク経験者の倍以上の割合となった。
また、リモートワーク経験者に作業環境についてたずねたところ、PCデスクが最も多く47.6%であった。ただ、その一方でリビングテーブルを使う人が34.8%、地べた座りの人が13.2%、ソファーが2.8%と、作業がしにくいと思われる環境で仕事をしている人も少なくないことが明らかになっている。パンデミックの影響を受け、急に在宅勤務に切り替わったことで、自宅をそのままワークスペースとして活用せざるを得ず、不調につながっている様子が見て取れる。
リモートワークには「バーンアウト」を抑制する一面も
もちろん、リモートワークには、業務の効率化やワークライフバランスの向上など少なからぬメリットもある。例えば、「バーンアウト(燃え尽き症候群)」の抑制もその一つ。女性のキャリア推進を支援する非営利団体Catalystが2021年5月に発表したレポートでも、それが示されている。
Catalystはバーンアウトを「仕事における長期にわたるストレスから生じる身体的および精神的な疲労と、それによる仕事への意欲喪失や職能低下」と定義し、世界中の約7500人の従業員(被雇用者)を対象に調査を実施。その結果、92.3%もの人が何らかのバーンアウトを経験していることがわかった。一方で、リモートワークを選択できる企業の従業員は、そうでない企業の従業員と比較してバーンアウトの経験が減少しており、管理職が共感を示すことでその割合はさらに減少したという。
リモートワークの選択肢は従業員のバーンアウト(燃え尽き症候群)を減少させる。(画像はCatalystのレポートより)
同団体の委員長兼CEOを務めるロレイン・ハリトン氏は、「バーンアウトは離職につながるが、それは意図的なリモートワークや柔軟な働き方の推進によって軽減できる」と語っている。リモートワークは「リモート疲れ」を加速させる一方で、子育て中の女性をはじめ、あらゆるワーカーの生活環境を包括的にサポートする働き方としてメリットをもたらすとも考えられる。
リモートワークを快適にする米国の注目サービス 「Anyplace Select」「LaptopFriendly」「Caveday」ほか
このように、ポジティブな面もネガティブな面も持つリモートワークだが、作業する環境を整えるだけでもワーカーの快適度は大きく変わり得る。そこで、リモートワーク環境の改善のヒントとするべく、「ワークスペース」と「パフォーマンス」の2つのカテゴリーに大きく分け、米国事例からユニークなアイデアを紹介したい。
1.ワークスペース探しに役立つサービス
・リモートワークに最適化した住居が見つかる「Anyplace Select」
短期契約で借りられる家具付きの物件が掲載されている「Anyplace」。2017年のローンチ当初はフリーランスなどを中心に利用されていたが、企業のリモートワーク人口の増加に合わせて、リモートワーカーをメインターゲットとした「Anyplace Select」を始動した。同サ―ビスで紹介する物件には、超高速インターネットやスタンディングデスク、人間工学に基づいたワークチェア、ビデオ会議用のマイクやウェブカメラ、グリーンスクリーンなど、リモートワークを充実させる設備が整えられている。
・近くのワークスペースを気軽に探せる「LaptopFriendly」
リモートワーカーやデジタルノマドを対象とした「LaptopFriendly」。世界中の都市のカフェやコワーキングスペースがリストアップされており、ノートパソコンを持ち込んで仕事ができる場所を簡単に見つけることができる。登録される場所はすべて、高速Wi-Fi、電源コンセント、快適に作業できる椅子、そしてコーヒーがあることが条件となっている。
・自宅の空きスペースを提供する個人と企業をつなげる「Codi」
「codi」は、コワーキングスペースを提供するWeworkと民泊のAirbnbを組み合わせたようなサービスだ。自宅の空き部屋やガレージなどの空きスペースを提供したい個人と、チームのためのワークスペースを探す企業をマッチングさせるサポートをしている。すべてのスペースには、高速Wi-Fiや淹れたてのコーヒーなど、典型的なオフィスアメニティが用意されている。
2.仕事のパフォーマンス向上に役立つサービス
・他人の存在を意識することで集中力を高める「Caveday」
「Caveday」は、バーチャルなコワーキングスペース。オンライン会議ツールのZoomを使用し、見知らぬ人同士が集まってマイクをOFF、カメラをONにした状態で作業することで、集中力を高めることを狙いとしている。作業を始める前に参加者が目標を設定し、50分ほど作業に集中。ガイド役のモデレーターが作業終了を参加者に告げ、目標に対するそれぞれの進捗状況を共有したり、一緒にストレッチをしたりする。ほかの人の目を意識することで気の緩みを防ぐことができ、仕事のパフォーマンスが向上するという。
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・メンタルヘルスの強化をサポートする「Coa」
「Coa」はメンタルヘルスのケアを目的とした“ジム”だ。運動不足になってジムでトレーニングをするように、Coaではリモートワークでも生じやすいメンタルの不調に働きかけるオンラインプログラムを用意している。セラピストによるライブレッスンでは、講義を視聴するだけではなく、双方向のエクササイズや小グループでのディスカッションを体験しながら、メンタルヘルスの強化を図っていく。参加者が集うオンラインコミュニティにも参加できる。
・オンライン会議中のノイズを低減する「Krisp」
周囲の雑音が気になって、オンライン会議に集中できなかった経験を持つ人は少なくないだろう。そんなときに役立つのが、ワンクリックでノイズをキャンセルできる「Krisp」だ。ZoomやGoogle Meet、Microsoft Teams、Slackなど、対応可能なアプリケーションは多岐にわたる。同居する家族の声やクルマの雑音、議事録用にタイピングする音など、自分だけではなく相手側のノイズも低減でき、屋外でも活用しやすい。
快適なリモートワークから、選べるハイブリッドワークへ
今回はリモートワークを快適にするアイデアを紹介したが、これらはオフィスで働くことのメリットと裏表の関係にある。先に示したMicrosoft社のレポートのタイトルにもあるように、今後は、オフィス勤務とリモートワーク、それぞれのメリットを取り入れた「ハイブリッドワーク」の存在感がさらに高まっていくことが考えられる。世界はもちろん、日本における同ワークスタイルの広がりについても注視していきたい。