企業はジェンダー格差の問題にどう取り組む? 国内企業の先行事例
世界的にジェンダー格差に関する意識が高まる一方、日本では他の先進国ほど女性の社会進出が進んでいない。そんな日本の現状や国内企業の先行事例を見ながら、今後の展望を考察する。
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日本でも広がりつつある、ジェンダー不平等への問題意識
2021年2月、東京オリンピック(五輪)・パラリンピック大会組織委員会の会長を務めていた森喜朗氏が、女性蔑視ともとれる発言をしたことが国内外のメディアで取り上げられた。
この発言が辞任に発展するきっかけとなったのは、多くの人々がSNSで抗議の声をあげたことだろう。翌日に謝罪が行われ、国際オリンピック委員会(IOC)が問題は終了したとの見解を示し、これを政府も追認する発言をしたため、当初はそこまで大きな問題にならないとも思われた。しかし、各国の大使館から発言を疑問視するアクションが起こされたことや、著名人やスポーツ選手がSNSなどで疑問を呈したことで、発言に対する批判の声が大きくなっていった。
世界的にも、ジェンダーに関する意識が高まっており、今後は日本でも議論が活発化することが予想される。ジェンダーレス(性差を前提とした社会的、文化的性差をなくそうとする考え方)という価値観もその一つだ。日本社会はこうした変化が生む課題に対し、さらに真剣に取り組んでいく必要があるだろう。
では、日本企業はそうした動きにどう対応していけばよいのだろうか。日本社会の現状と先駆的な取り組みを行う企業の事例を見ながら、今後の展望について考察する。
日本の「ジェンダー・ギャップ指数」は何位?
雇用に関して、日本では「男女雇用機会均等法(正式名称:雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律)」が1985年に制定され、翌年に施行されている。しかし、日本における女性の社会進出は他の先進国ほど進んでいない。
各国の男女格差を測る指標の一つに、世界経済フォーラム(WEF)が毎年出す「ジェンダー・ギャップ指数」がある。2021年3月に発表された「ジェンダー・ギャップ指数」によると、日本は153カ国中120位。G7の中で最も低い順位であり、107位の中国や102位の韓国など、アジアの主要国と比べても低い結果となった。
特に政治分野での指数が低く、国会議員に占める女性の割合が日本では10%程度と世界最低水準であった。また、経済分野においても女性役員・管理職の割合が約15%と先進国の中でも目立って低く、一方でパートタイムで働く女性の割合は男性の約2倍となっており、男女格差が大きい結果が示されている。
国連女性差別撤廃委員会の委員でもある亜細亜大学の秋月弘子教授は、政治分野における男女格差が一番の問題だと「東京新聞(TOKYO Web)」で述べている。秋月教授は、日本の衆議院議員のうち女性が占める割合は1割に満たず、「政治分野における男女共同参画推進法」にも罰則はないことに触れ、一定の比率で女性を割り当てる「クオータ制」の導入などの暫定的な特別措置をとるべきであり、社会を変えるには法や制度をつくる国会を変えなければならないと同記事で語っている。
世界的に進む、ジェンダー平等を実現するための取り組み
ジェンダー平等を求める意識は、世界的に高まっている。なかでも、男女格差が少ないと言われる欧州諸国では、各国が男女平等の実現に向けて取り組んできた。近年はEUが主体となり、さらなる是正のための働きかけが積極的に行われている。
その一つが、2015年にスタートした「男女平等へ向けた戦略的取り組み2016-2019」だ。これは、EU全体で女性の雇用促進、男女間の賃金格差の縮小、意思決定の場での男女平等などに取り組むものである。
例えば、雇用促進においては、EUが「欧州2020」で20~64歳の就業率を69%から75%まで引き上げることを目標にしており、その達成には女性の雇用率向上が欠かせない。そのたsど女性が主に従事してきた無償労働に費やす時間の男女格差を均等に近づける必要があるとし、労働形態を柔軟にする体制や、出産・育児休暇を男女間で分け合える制度づくりを各国に求めている。
また、賃金格差の縮小においては、「欧州男女同一賃金の日(European Equal Pay Day)」を実施して意識向上を図るほか、性差が理由で賃金格差を受けた場合は裁判を求められるシステムを強化した。さらに、2020年までに大手上場企業の取締役の女性比率を少なくとも40%にするなど、意思決定を持つ立場の男女比のバランスを取るよう推進している。
これらの取り組みによってEUの主要国は「ジェンダー・ギャップ指数」の上位にランクインするようになり、一定の成果が出ている。しかし、EUはいまだ加盟国の中で男女平等の実現には至っていないとし、さらなる戦略として2020年に「ジェンダー平等戦略2020-2025」を発表している。
日本社会におけるジェンダー格差是正の動き
日本でもジェンダー格差を是正する取り組みは進められており、2014年には「すべての女性が輝く社会づくり本部」が設置された。その翌年には、女性が働きやすい環境づくりを企業に求める「女性活躍推進法(正式名称:女性の職業生活における活躍の推進に関する法律)」が制定され、2016年には男女雇用機会均等法と育児・介護休業法が改正されている。
また、2019年の女性活躍推進法の改正では、それまで「301人以上の企業」としていた対象を「101人以上の企業」へと広げ、中小企業に対しても環境整備を求めるようになった。厚生労働省も、女性の活躍を推進する企業に与える「えるぼし認定」制度を設け、企業の女性登用を後押ししている。
「男女共同参画白書 令和2年版」を見ると、15~64歳の就業率において、特に女性の上昇が著しい。100人以上を雇用する企業での女性役職者比率も少しずつ伸びており、2019年時点で役職者に占める女性の割合は、係長級で18.9%、課長級で11.4%、部長級で6.9%となっている。
しかし、先に述べたように、日本の「ジェンダー・ギャップ指数」は先進国で最低レベルなのが現状だ。また、「男女共同参画白書 令和2年版」でも、OECD諸国における就業率の男女差を比較したデータで、格差が7番目に大きかった。日本がジェンダー平等社会へと変貌を遂げるには、さらなる法改正やクオータ制の導入など、積極的な介入が必要ではないだろうか。
女性の活躍を推進する日本企業の事例
日本において女性の活躍を推進する企業は、具体的にどのような取り組みを行っているのだろうか。ここでは、先駆的な2社の事例を見ていきたい。
1. 日本アイ・ビー・エム株式会社(日本IBM)
日本IBMは、『日経WOMAN』と「日経ウーマノミクス・プロジェクト」による2020年版「女性が活躍する会社BEST100」で総合1位を獲得している。同社は、1960年代には女性の積極的な採用を開始し、1985年には国に先駆けて育休制度を導入するなど、早くから女性が働きやすい環境づくりに力を入れてきた。
1998年には、「女性のさらなる活躍支援」を改めて宣言し、役職者として活躍する女性を増やすことを目標に、「Japan Women’s Council(JWC)」活動をスタート。2000年以降は新卒採用での女性比率を4割まで引き上げ、2021年末までに課長級以上の割合を21%とすることを目標としている。
また、女性の採用や役職者比率を増やすため、1999年に育児や介護との両立を支援する在宅勤務制度を、2004年に短時間勤務が選べる制度を導入した。さらに、2009年にはコアタイムなしのフレックス短時間勤務制を取り入れ、2011年には企業内保育園の設置も行うなど、女性の活躍をサポートする取り組みを積極的に行っている。
2. 株式会社資生堂
資生堂も、2014年から2016年まで、3年連続で「女性が活躍する会社BEST100」の総合1位となっている。同社では1990年以降、仕事と育児・介護を両立できるよう、法に先駆けた育休制度の導入や事業所内保育所の設置など、様々な制度や施策を取り入れてきた。
また、2004年からは女性活躍推進に取り組み、2017年から女性リーダー育成塾「Next Leadership Session for Women」を開催し、上級管理職を志す女性社員に向けて女性リーダー特有の悩みや課題に焦点を当てた研修を実施している。その結果、2020年1月時点で国内グループの女性管理職比率は33.1%、2020年4月における取締役・監査役の女性役員比率は46.2%と、日本企業の平均を大きく上回る成果をあげている。
このほか、女性が活躍する際の壁となる長時間労働の是正や、ワーク・ライフ・バランスを重視した働き方の見直しなども行っている。
制度の整備だけでなく環境づくりも重要
ジェンダー平等の実現には、女性のさらなる社会進出はもちろん、収入格差だけでなく意思決定の場での格差の是正も必要となる。そのためには、国が中心となって法整備を行う必要がある。
しかし、国が努力目標を課すだけでは、思うように進まないのも事実だ。2013年に安倍元首相が、2020年までに指導的地位に立つ女性の比率を30%にする「ウーマノミクス戦略」を提唱したが、公約通りには進まず、2015年に目標を下方修正する結果となった例もある。
制度づくりが進んでも、女性が働きたい、役職者として意思決定に関わりたいと思える環境でなければ、女性の社会進出は進まない。社内制度の整備と同時に、男女ともに働きやすい環境づくり、そして社員の意識改革にも取り組むことが、ジェンダー平等の基盤づくりにつながるだろう。