オフィスから市役所まで。広がる「個室型ワークスペース」の活用事例とメリット
Web会議の普及により、会議スペースの問題が発生。その打開策として注目の「個室型ワークスペース」について、オフィスに導入可能な商品と個人ユーザーが利用可能なサービスを紹介する。
Facility
「Web会議をする場所がない」という新たな課題
リモートワークの普及とともに、Web会議が急速に普及した。現在はオフィスに通勤する人も増えているが、Web会議はもはや ‟当たり前” のビジネスツールとなっている。
株式会社スコラ・コンサルトが2022年1月、会社員2577名に行った調査では、コロナ禍収束期のミーティング開催方法として、「職場で対面の意向」が計35%、「そのつどオンライン/リアルを判断」が30%と拮抗しており、「オンラインが標準として定着」も21%と一定割合を占めている。
そんな中、オフィスワーカーの間では「Web会議をする場所がない」という問題が生じている。例えばよく耳にするのが、次のような悩みだ。
・会議室は数に限りがあるため、常に埋まっている
・静かな執務空間では、周りの迷惑になるのではないかと気を遣う
・社内の共有スペースだと周囲の雑音を拾ってしまう
・会話の内容が周りに聞こえてしまう
実際に、株式会社ロータスが2022年5月に20~50代の会社員512名を対象に行った調査において、「自分のデスクでビデオ会議をすることがある」と答えた人のうち40%が「会議室不足に困っている」と回答したという。
また、リモートワークを選択しているワーカーもこの問題と無縁とは言えない。自宅で快適な作業環境が確保できない場合、あるいは集中できない場合に、カフェやコワーキングスペースを利用する人も多いだろう。しかし、オープンスペースでは雑音が多く、また情報漏洩の心配もあることから、こちらでも「Web会議をする場所がない」という問題が生じているのだ。
個室型ワークスペースに対するニーズの高まり
こうした状況への打開策として注目されているのが「個室型ワークスペース」だ。個室型ワークスペースとは、電話ボックスのようなコンパクトさと防音性を確保したワークスペースのこと。Web会議利用を想定して、電源やネット環境、さらには空調まで備えた製品も見られる。駅ナカを中心に、オフィスビルのエントランスや商業施設のほか、最近ではオフィス内での導入事例も増えてきている。
米国に目を向けても、やはり個室型ワークスペースの需要は高い。その背景にあるのが、多くの企業が採用するオープンオフィスがもたらすデメリットだ。
オープンオフィス・モデルでは従業員間のコラボレーションが生まれやすい反面、プライベートな空間を確保できず、作業への集中も難しくなる。また、間仕切り型のオフィスからオープンオフィスへ移行したことにより、対面コミュニケーションが70%減少したという報告もある。その点、個室型ワークスペースは、オープンオフィスのメリットを生かしながらプライバシーも守れるため、北米のほか英国やインドなどでも急激に普及が進んでいるという。
オフィスにおける個室型ワークスペースの活用事例
オフィスの場合、新たに会議室を増設するという手段もあるが、賃貸入居しているオフィスでは増設工事が許可されないケースも少なくない。個室型ワークスペースなら、導入にかかるコストを抑えられ、オフィス内でレイアウト変更を行った際も設置場所を変更できるというメリットがある。
では、オフィスでは実際にどのような個室型ワークスペースが導入されているのだろうか。さまざまな製品が登場しているが、今回はその中から以下の4つを紹介する。
1. WORK POD
コクヨ株式会社のWORK PODは、使用シーンに最適化したラインナップが特徴の個室型ワークスペースだ。Web会議に適した「ソファー仕様」、電話やクイック作業に適した「スタンディングタイプ」「電動昇降デスクタイプ」、対面ミーティングに適した「2人用」「4人用」「1on1タイプ」など複数のタイプから選べる。
電源、USB給電、調光機能付きLEDライトなどを標準装備しており、優れた換気性能を持つ。ガラス面を大きくとった開放感のあるデザインが特徴で、複数のワークスペースを並べても違和感はない。
株式会社カオナビに設置されたWORK POD
ユナイトアンドグロウ株式会社に設置されたWORK POD
2. テレキューブ
株式会社ブイキューブが提供するテレキューブは、大規模な設置工事を必要としない個室型ワークスペースだ。1人用の「ソロ」、2人用の「グループ1型」、4人用の「グループ2型」の3タイプを展開している。
キャスター付きの可動式で、防音性、遮音性に優れた設計。サブスクリプション(月額課金)での利用も選択できるため、初期費用が抑えられるのも魅力だ。
テレキューブ(画像は株式会社ブイキューブのWebサイトより)
3. ソロワークブース CocoDesk
富士フイルムビジネスイノベーション株式会社が提供するソロワークブース CocoDeskは、一般ユーザー向けの「CocoDesk」をもとにオフィス用に設計された製品。防音パネルや24時間換気、抗菌コーティング、スライドドア、熱感知式自動消火装置などに加え、電源、USB給電も完備。
同社はソロワークブース CocoDeskのほか、2人用ブースや設置がより簡単なエントリーモデルなども展開している。
ソロワークブース CocoDesk(画像は富士フイルムビジネスイノベーション株式会社のWebサイトより)
4. Remote cabin
株式会社クラスが提供するRemote cabinも、サブスクリプションでの利用が可能だ。天井オープン仕様と天井クローズド仕様が選択でき、天井クローズド仕様は音に配慮した防音設計。天井にLED ダウンライト、換気ファン、自動消化装置を備えている。
Remote cabin(画像は株式会社クラスのWebサイトより)
5. One-Bo
株式会社プラザクリエイトがZoomと共同企画した「One-Bo(ワンボ)」。電源やUSB給電、換気ファンといった一般的な機能のほか、透明度を切り替えられるスマートガラスを採用しているところが特徴だ。
空間に合わせたラッピングオプションがあり、オリジナルのデザインを作成することもできる。3~4時間で設置可能かつ価格も控えめな、導入しやすい個室型ワークスペースといえる。
画像は株式会社プラザクリエイトのWebサイトより
商業施設や行政施設での個室型ワークスペースの活用事例
駅ナカを中心に展開されてきた個室型ワークスペースの設置が、商業施設や行政施設にも広がってきている。ここでは、一般のビジネスパーソンを対象とするサービスとして、「テレキューブ」、「STATION BOOTH」、「CocoDesk」の3つをあげ、それぞれの展開について解説する。
1. テレキューブ
先に紹介したオフィスでの導入のほか、駅構内をはじめ、コンビニ、商業施設や行政施設の通路、コワーキングスペースなど、さまざまな場所に設置されているテレキューブ。
2021年12月には、JR東海が取り組む駅や車内のビジネス環境整備の一環として、テレキューブを元にした個室型ワークスペース「EXPRESS WORK-Booth」を提供した。好評につき設置場所が拡大し、現在は新幹線のぞみ停車駅の全駅に加え、主なひかり停車駅にも設置されている。
新幹線のEXサービス(エクスプレス予約・スマートEX)会員向けのサービスとなるが、乗車直前までWeb会議や集中した作業ができ、東海道新幹線での出張時に便利だ。
画像は株式会社ブイキューブのWebサイトより
また、2022年3月には仙台空港の国内線搭乗待合室内に、同年8月には鹿児島空港の国内線旅客ターミナルビル内にテレキューブが設置された。同社は今後、全国の空港との連携を進めていくとしており、空港でのテレワークや個室作業のニーズにも対応していくとみられる。
2. STATION BOOTH
JR東日本が手掛けるSTATION BOOTHは、駅ナカを中心に展開するシェアオフィス事業「STATION WORK」のサービスのひとつ。こちらもテレキューブをもとに開発された製品で、デスクやWi-Fi、電源、小規模な空調などが完備されている。
画像はJR東日本グループのWebメディア「andE」より
都心の駅ナカでサービスを開始したが、全国の駅ナカからマチナカにまで設置を拡大。STATION BOOTHを含むSTATION WORKは、全国570カ所で利用可能となっており、2023年度末までに1000拠点をめざしているという。
3. CocoDesk
CocoDeskは、前述の「ソロワークブースCocoDesk」のベースとなる個室型ワークスペース。東京メトロでは「駅ナカおひとり空間」としてCocoDeskを導入しており、現在、31駅に56台を設置している。
画像は東京メトロのプレスリリースより
東京メトロのほかに京王電鉄の「明大前駅」や「京王八王子駅」、京浜急行の「京急川崎駅」や「京急久里浜駅」にも拡大。千葉県・埼玉県内のショッピングモールなどにも設置しており、総設置台数100台でサービスを展開している。
上記3つのサービスは、駅ナカから事業を本格化している点で共通している。都心の駅周辺には日夜ビジネスパーソンが行き交い、駅構内には空きスペースが豊富にある。リモートワークの浸透で「Web会議をする場所」に対するニーズが急増したことを追い風に、一気に普及したというわけだ。現在も、設置台数は右肩上がりで増加しつづけている。
メリットは「働き方の変化」への柔軟な対応力
個室型ワークスペースは、オフィス向けと、駅ナカを中心とした一般ユーザー向けのどちらにおいても、利用のハードルが低いのはメリットのひとつだ。オフィス向けのサービスでは初期費用が抑えられ、一般向けのサービスには1回ごとの利用料を支払うだけという気軽さがある。
大がかりな工事を必要とせず、比較的ローリスクで導入できる個室型ワークスペース。働き方の変化とともに働く場所が多様化するなか、今後さらに存在感を増していくのではないだろうか。