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グローバル視点で見るワークプレイスを取り巻く環境の変化と将来像 | WORKTECHレポート

2020年12月に開催された、WORKTECH20 Global Virtual Conferenceの内容の一部をレポート。ワークプレイスを取り巻く環境の変化やそこから見えてきた将来像について、3つのポイントに分けて紹介する。

Design, Culture

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コロナ禍で大きく動いた「働き方」の変革

WORKTECH20 Tokyoのバーチャルイベントに続き、登壇者などのプログラムを一新したWORKTECH20 Global Virtual Conferenceが、2020年12月に開催された。

本イベントでは42名の登壇者が、デザイン、テクノロジー、人材、不動産、都市開発など「働き方」を前進させるための学びとなるプレゼンテーションを実施。東京の新国立競技場デザインコンペでも知られるグローバル建築事務所「ザハ・ハディド・アーキテクツ(Zaha Hadid Architects)」、デンマーク発の世界最大級玩具メーカー「レゴグループ」、カナダ五大銀行の一つである「スコシアバンク(Scotiabank)」といった、各分野を牽引する人々が名を連ねた。

新型コロナウイルス感染症の影響で「働き方」の変革期を迎えた2020年を振り返り、様々な年代、分野、業界のキーパーソンは何を語ったのだろうか。本記事では、ワークプレイスを取り巻く環境の変化、そしてそこから見えてきた将来像について、イベントで語られた内容の一部を3つのポイントに分けて触れていく。

Point 1 都市のように発展するワークスペース

ザハ・ハディド・アーキテクツ(Zaha Hadid Architects:以下、ZHA)のアソシエイトアーキテクト兼ワークプレイスチームの共同責任者であるウーリッヒ・ブルーム(Ulrich Blum)氏は、オフィスビルがグローバルなコンテキストにおいて今後どのように発展していくのか、実際のプロジェクトを例にあげながら見解を述べた。ZHAでは約5年前に、働く場づくりに特化したチームを立ち上げており、ビッグデータ分析やIoT、センサー技術、スマートアルゴリズムなど、新しいテクノロジーとデザインを掛け合わせることで、実証に基づいたワークプレイスづくりを目指している。

ZHAが抱えるプロジェクトは比較的大規模なものが多いが、近年のグローバルな傾向として、オフィスビルやオフィス設計においてより大きな空間を求める企業が増えているという。その背景の一つがオフィスが担う役割の変化であり、ブルーム氏は次のように語っている。

「テクノロジーの発達やライフスタイルの変化により、“働く場”という目的のみを求められていた画一的なオフィスは、スマートで柔軟性のある空間へと変化を遂げている。これからのオフィスは、より対応力に優れた、自己学習型(SELF LEARNING)かつ自己進化型(SELF EVOLVING)になっていくだろう」

つまり、今後オフィスは新たなコラボレーションやイノベーションを生み出すソーシャルな場としての機能を持ち、空間自体がサステナブルに環境の変化に呼応していくのだという。それには人々が関係性を築けるスペースが必要であり、ゆえに物理的空間の拡充につながっているのではとブルーム氏は指摘した。

その一例が、ロシア・モスクワに建設予定のズベルバンク・テクノパークビル(The Sberbank Technopark Building)である。20,000〜50,000m2の「メガフロア」を利用したプロジェクトで、ズベルバンクの従業員17,000名が働くオフィス空間に加え、各フロアには2,000〜5,000名分の住居スペースを設置。ビル内の巨大なアトリウムを通して人と人の視線が交錯するため、互いにつながりを感じられるという。

ズベルバンク・テクノパークビル

ズベルバンク・テクノパークビルのイメージ(画像はZHAのWEBサイトより)

また、2012年に完成した中国・北京のギャラクシー・ソーホー(The Galaxy SOHO)は、4棟のタワーで構成され、約330,000m2の延床面積を有する。それぞれのタワーはその抽象的形状が延長したようなブリッジでつながっており、オフィスや商業施設、エンターテイメント・コンプレックスなど異なる機能を内包した空間になっている。

ギャラクシー・ソーホーイメージ

ギャラクシー・ソーホーのイメージ(ZHAのWEBサイトより)

ギャラクシー・ソーホー

ギャラクシー・ソーホーのイメージ(ZHAのWEBサイトより)

巨大な床面積を有するオフィスビル・オフィス空間に共通するのは、それ自身が機能的な都市のように管理・運営されていることだ。複合的な機能が1カ所に集まり、互いにリンクし、影響し合いながら空間が成り立っていく。小さな都市のように空間が機能し、物理的に空間を共有することで、偶発性が生まれる。そうして、新たな付加価値やイノベーションのきっかけが生み出されていくのである。

このようなワークスペースの役割の変化に対し、ブルーム氏は「今日、パンデミックを機に私たちはより急速な世界の変化を目の当たりにしているが、同じ空間の共有とそこでのコミュニケーションは、なお必要なものとして残っていくだろう」と強調する。

Point 2 テクノロジーとデータ活用によるサステナブルなオフィス環境

1. アルゴリズムを導入したオフィス設計

自己学習型(SELF LEARNING)かつ自己進化型(SELF EVOLVING)なオフィスにとって、テクノロジーとデータ活用は欠かせない。大規模なオフィス設計には無数の要素が含まれるため、ZHAは長年にわたり、プロジェクトの設計・実行における全てのプロセスでテクノロジーを利用してきた。

例えば、効率的かつ最適なレイアウトを実現するため、フレキシビリティや導線、周囲とのつながりなどを考慮し、数千パターンのレイアウトを自動的にテストするテクノロジーの活用もその一つ。さらに、ZHAが蓄積してきたデータやリサーチを元に、デスク間の距離および位置関係からコミュニケーションやコラボレーションの誘発度を導き出している。

オフィスレイアウト

自動的にテストされたレイアウトのアルゴリズム(画像はCOMMERCIAL DESIGNより)

また、ZHAが手がけるプロジェクトでは、オフィスビルやオフィス空間にスマートセンサーを装備するケースが多いという。スペース占有率や照明・温度などの環境データと共に、実際どのように空間が運用されているのか、運用後の空間データを更新しているとのこと。これについて、ブルーム氏は「ZHAは、空間が適切に機能しているか、ワークスタイルの変化に適応できているか、プロジェクト完了後も継続したデータ分析を行っている。そうすることで、空間の持続的変化を可能にし、クライアントのニーズをより理解できる」と語っている。

2. 働く人々が安心かつ安全に働けるオフィス環境づくり

イギリスをベースに、不動産業界向けのエンタープライズソフトウェア開発、ウェブ・モバイルアプリ設計において豊富な経験を持つスマートスペース(Smart Spaces)は、ビル利用者と建物のコミュニティやシステムをつなげるホワイトラベル (※1) のIoTプラットフォーム「Smart Spaces®」について説明した。

※1 ホワイトラベル:ある企業が独自で開発したサービスやシステムを、他の企業が同じ内容や使い勝手になるようカスタマイズし、自社のブランドとして販売できる権利のこと。

Smart Spaces®は最新のIoTテクノロジーを統合し、建物システム内の利用可能なデータを収集するアプリだ。このアプリの使用により、スマートビルやオフィススペースの照明、HVAC (暖房、換気、および空調)、エネルギー、非接触アクセス制御などをスマートフォンで快適かつ安全に、360度全方面から制御・自動化できるようになる。

また、リアルタイムで運用フィードバックを提供するため、常にデータを更新しながらオフィス環境を整えることも可能。同社CEOのダニエル・ドラグマン(Daniel Drogman)氏は、サステナブルかつ働く人々の健康を重視するオフィスビル管理システムの必要性は、今後さらに高まると指摘している。

(1) シンプルかつ安全な非接触アクセス訪問者管理

オフィス復帰の取り組みについて様々な議論が行われているが、社員はもとより、訪問者に対する安全と安心の確保も必要不可欠な要素だ。Smart Spaces®は以下の3ステップにより、非接触型の訪問者管理を可能にしている。

非接触型訪問者管理

非接触型の訪問者管理(画像はSmart SpacesのWEBサイトより)

事前のID提供により訪問時の受付をスキップでき、QRコードがない場合も、フロントのタブレットを介して自動でサインインできる仕組みになっている。訪問者のリアルタイムデータを提供することで、災害時や緊急時のアクセスリストデータとして活用できるのもメリットだ。

(2) オフィス内外のコミュニティづくり

Smart Spaces®は、職場での人々とのつながりやコミュニティの創造をサポートする役割も担っている。インタラクティブなSocial Wall上では、同僚とのメッセージや電話機能に加え、オフィス周辺のレストランやショップ、イベント情報を得られるなど、仲間とのコミュニケーションを誘発する工夫が施されている。同社でディレクターを務めるマシュー・オーハロラン(Matthew O’Halloran)氏は、この点について、「ビルを利用する組織とその従業員のコミュニティ形成は、同時に働く場へのエンゲージメントを高める」と語っている。

SmartSpaces

Smart Spaces®のSocial Wallのイメージ(画像はSmart SpacesのWEBサイトより)

Point 3 ワークプレイスの柱は「PLAY」

レゴグループはコロナ禍による働き方・ワークプレイスの変化を受け、全社員を対象に在宅勤務に関する意識調査を行った。「オフィスに求める価値や役割は?」という質問では、「同僚とのコミュニケーション」との回答が大半を占め、次いで「コラボレーション」や「対面ミーティング」との回答が多かったという。また、世界トップクラスのコンサルティングファームであるボストンコンサルティンググループの調査や、世界最大級の建築・インテリアコンサルティング会社であるGensler社が行った調査においても、「人と人とのつながり」に関する意見が多く見受けられた。

オフィス再開に向けた準備を念頭に置き、レゴグループでは様々なリサーチを元に社員がオフィスに求めるニーズを探り、以下の5つのアクティビティにまとめている。

①Social interaction(ソーシャルインタラクション)
②Collaboration(コラボレーション)
③Connecting to company & values(企業や組織文化とのつながり)
④Group learning(グループラーニング)
⑤Creative thinking(クリエイティブシンキング)

そして、これらのアクティビティの共通言語となるのが「PLAY」だという。ここでの「PLAY」は純粋に楽しむ・遊ぶというアクションだけではなく、チャレンジする姿勢など広義的な意味を持ち、「5 characteristics of a playful experience(PLAYをベースとする経験における5つの特徴)」を内包している。

レゴグループ5つのアクティビティ

レゴ・ワークプレイス・エクスペリエンス部門でシニアマネージャーを務めるティム・アーレンズバック(Tim Ahrensbach)氏は、5 key workplace activitiesと5 characteristics of a playful experienceは深い関連性を持つと指摘している。程度の差はあるが、社員がオフィスに求める5つのアクティビティは、そのままPLAYFULな経験につながっているのだという。

例えば、「Collaboration(コラボレーション)」では、同僚とコミュニケーションをとり、積極的に参加する中で、楽しさや有意義な時間を感じることができる。アーレンズバック氏は「私たちは社員がオフィスに求める5つのアクティビティの需要を、すなわちPLAYの需要として捉え、これからのワークプレイスづくりに活かしていくつもりだ」と、今後について語っている。

LEGO新本社

デンマークのビルンにある新本社(画像はレゴグループのWEBサイトより)

2021年完成予定の、デンマーク・ビルン本社にある最先端のキャンパスでは、PLAYを軸にオフィス空間をどう利用するかをテーマとしたプログラムを組んでいる。従来は、「70%:デスク・集中スペース」、「15%:コラボレーション・ミーティングスペース」、「15%:ソーシャライズスペース」という割合でオフィス空間を利用していた。今後はPLAYをより具現化するため、ソーシャライズスペースの割合を増やし、3つのスペースを約33%ずつ均等に配分する予定だという。

今後、ワークプレイスはどのような変化を求められる?

本記事で紹介した「都市のように発展するワークスペース」、「テクノロジーとデータ活用によるサステナブルなオフィス環境」、「ワークプレイスの柱は『PLAY』」という3つのポイントは、今回のイベントで語られた内容のほんの一部に過ぎない。このほかにも、メンタルヘルスや働き方の変化と呼応する不動産、都市開発の将来像など、ワークプレイスにおける新しい価値観について様々なセッションが活発に行われた。Worker’s Resortでは、「働き方」に関して新たな気付きを得る機会となるWORKTECH情報を、2021年も引き続き積極的に発信していきたい。

この記事を書いた人:Chinami Ojiri

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