出社時、「対面コミュニケーション」のメリットを活かすオフィス事例
ハイブリットワークが浸透する中で見えてきた、出社時の対面コミュニケーションの重要性。今回はそのメリットを解説しつつ、オフィス事例や便利な機器を紹介する。
Facility
ハイブリッドワークを通して見えてきた課題
コロナ禍の今、対面でのコミュニケーションを重視したオフィスが注目されている。オフィスの縮小・解約を検討する企業が見られる一方で、オフィスの役割を見つめ直し、積極的に投資する企業も現れているのだ。その背景には、テレワークとオフィスワークを組み合わせた「ハイブリッドワーク」の浸透がある。
新型コロナウイルスの感染拡大とともに、大企業・中堅企業を中心にテレワークの導入・普及が一気に進んだ。2020年8月に、株式会社月刊総務が全国の総務担当者を対象に行った調査によると、「これからの働き方がどうなると思うか」という問いに対し、「オフィスとテレワークの融合」との回答が71.3%と7割を超えた。一口にハイブリッドワークと言ってもその実情は様々だが、次の2つのタイプに大きく分けられるだろう。
(A) 在宅とオフィスで、取り組むタスクを特に変えない働き方
(B) 1人で行うタスクは在宅で、対面コミュニケーションが有効なタスクはオフィスでと使い分ける働き方
緊急事態宣言下では、十分な体制が整わないまま急遽テレワークを導入せざるを得なかった企業もあり、その多くは(A)の運用からスタートしたと思われる。この働き方を継続していく中で特に問題を感じなければ、オフィスに求められる役割は従来とさほど変わらず、レイアウトも現状維持で問題ない。
一方の(B)は、(A)を進化させた働き方と言える。この場合、対面コミュニケーションのメリットを活かしたオフィスづくりが求められるのだ。
見直される、対面コミュニケーションの重要性
アジア経済研究所開発研究センターの田中清泰氏は、『リモートワークで出社勤務はなくなるか?――集積経済の視点』の中で「リモートワークと出社勤務において、最も決定的な違いは対面コミュニケーションにある」と語り、対面コミュニケーションの利点として次の3つをあげている。
・成文化できない情報の効率的な相互理解
・人間関係における信頼感や、やる気の醸成
・交流関係の選別と社会規範の学習
「言語化が難しい新たなプロジェクトのアイデアや複雑な課題の発見」、「チームにおける信頼関係の構築」、「社会・組織の規範や価値観の学習」などを必要とする場面では、出社による対面コミュニケーションのほうが有利に働くという。
(B)の働き方をする場合、これまでのオフィスレイアウトのままではメリットを活用しにくい。個人タスクは在宅で行うため、人数分の個人デスクがある執務スペースは常にガラガラという状況にもなり得る。それならば、コミュニケーションを活性化するための共有スペースに置き換えたほうが合理的だろう。
前出の月刊総務の調査でも、これからのオフィスに求められる役割は何かたずねたところ、「社内コミュニケーションの場」との回答が80.5%となっている。
対面のメリットを引き出すオフィス事例
では、各企業では実際にどのような工夫をしているのだろうか。対面コミュニケーションが持つメリットを重視したオフィス事例を見ていこう。
1. 株式会社ジンズ
ジンズのOPEN FLOOR OFFICE SPACE(画像はジンズのWEBサイトより)
ただ働く場所ではなく、スタッフ全員が自然にコラボレーションできる場所をコンセプトに設計されたジンズのオフィス。2015年度には、先進的なオフィスづくりが高く評価され、第28回日経ニューオフィス賞「ニューオフィス推進賞(経済産業大臣賞)」を受賞した。オフィス内には、フリーアドレスの執務スペースや、開かれた議論を可能にするコミュニケーションスペース、ガラス張りの会議室、朝食やランチ、Bar使いもできるカフェスペースなど、対面ならではの交流が生まれる工夫が施されている。
また、2017年には、集中するためのソロワーキングスペース「Think Lab」も開設。一人で作業に集中したい時、深く考えたい時に利用することができ、オフィス内でのハイブリットワークも可能にしている。
2. PayPay株式会社
PayPay新オフィスの4つのゾーン(©︎ WeWork Japan)(画像はPayPayのWEBサイトより)
WeWork Japan合同会社と共同で設計されたPayPayの新オフィスは、出社するメリットを最大限に引き出すことを重視したデザインだ。「作業や商談をする」オフィスから、「チームワークによる新しい価値を創出する、従業員のエンゲージメントを高める」オフィスへの変革を遂げている。
総席数は968席から228席へと大幅に削減。出社時のコミュニケーションを促すため、オープンスタイルのラウンジスペースやワークスペースを設置したほか、セミナーエリアや業務に集中するためのデスク・ワークエリアも設けている。
3. 株式会社エグゼクティブ
エグゼクティブのカフェ風オフィス「こみゅフェス」(画像はエグゼクティブのウェブサイトより)
2020年6月に全社員が在宅勤務に切り替わったのを機に、「仕事場」から「コミュニケーションをとるための遊び場」としてフルリノベーションされたのが、エグゼクティブのオフィス。月1回、コミュニケーションをとるため、全員が同社オフィスである「こみゅフェス」に集合し、プレゼン会やチームミーティング、ノウハウの共有を行っている。また、コミュニケーションの活性化を図るため、社内で出たアイデアをもとに、映画鑑賞やヨガ、屋内キャンプなどの遊びも実施している。
オフィスでのブレストや議論をサポートする機器の活用
対面での活発なコミュニケーションをサポートするべく開発された商品も発売されている。その中から、以下の2つを紹介しておきたい。
1. Face Up Table
株式会社イトーキの「Face Up Table(フェイスアップテーブル)」は、液晶ディスプレイを内蔵するテーブルだ。中央の大型ディスプレイで複数のデータを共有したり、表示した資料に直接書き込んだりと、スマートフォン感覚で扱える。複数の人数でも直感的に画面を操作できるため、共同での資料作成や意見交換など、資料を囲んだ対面のコミュニケーション時に役立つ。
2. PressIT
パナソニック株式会社の社内分社であるコネクティッドソリューションズ社が2020年10月に発売を開始した「PressIT(プレスイット)」は、手軽さが特長のワイヤレスプレゼンテーションシステム。ディスプレイやプロジェクターに受信機を接続し、PCやタブレット、スマートフォンにつないだ送信機のボタンを押すだけですぐに画面を共有できる。
特別なソフトやドライバーの設定、ケーブルの接続は必要ない。雑談の中から生まれたアイデアをその場で共有したり、少人数で気軽にブレストしたりするときにも便利だ。
働き方に合わせて変化していくワークプレイス
ハイブリットワークが浸透する中で浮かび上がってきた、対面コミュニケーションの重要性。オフィスという空間を使ったコミュニケーション活動にはさまざまなメリットがあり、オンラインでは代替できない面が確実に存在する。だからこそ、働き方の変化に合わせて執務空間を調整し、コミュニケーションを活発にする場づくりが模索されているのだ。
企業の規模やカルチャー、業務内容などにより、何がベストな方法なのかは大きく異なる。今後もコミュニケーションを重視したワークプレイスの動向に注目していきたい。