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新入社員の離職を防ぐ「オンボーディング」 効率的に導入する方法は?

社員の定着率を図るために日本国内でも導入が進む「オンボーディング」。HRの現場で注目度が高まるオンボーディングのメリットと、効率化に役立つツールを紹介する。

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HRの現場で注目されるオンボーディング

事業規模を問わず、多くの企業が抱える経営課題の一つに「社員の定着率」があげられる。コロナ禍で、リモートワークなどのオンラインによる業務推進やデジタルソリューションを使った業務管理が増え、ますます切実な課題となってきた。

時間と費用を割いて採用したにもかかわらず、社風に馴染めない、スキルの伸ばし方が分からないなどの理由で退職者を出すのは、企業にとって大きな損失となる。また、希望を胸に入社してくる社員においても、「会社文化と自分の求める働き方」や「業務内容と自分のスキル」のミスマッチは避けたいところだ。

こうした課題を解決するために欧米のHRの現場で開発され、日本の企業でも導入されはじめているのが「オンボーディング」である。

オンボーディングとは

オンボーディングは、「on-boad(飛行機や船に乗っている状態)」に由来する言葉で、もともとは乗組員や乗客がスムーズに船内環境に慣れるようサポートする仕組みのことを言う。そこから派生したHR用語では、新たに入社した社員が組織に馴染み、戦力としていち早く活躍できるよう支援するプロセスを指す。

HRテック先進国であるアメリカでは、離職防止策としてすでにさまざまな企業で導入されている。

例えばGoogleの場合、入社前の段階でオンボーディングを担当するチームからの連絡だけではなく、面接官やマネジャー、同僚から歓迎の意を示すメールも入るという。また、入社初日に行うオリエンテーションでビジョンや価値観といったGoogleのカルチャーを共有する、先輩社員がサポートしつつ小グループに分かれてランチをとるなど、新たな環境への順応を目的とした取り組みも行われている。

では、こうしたオンボーディング・プログラムに離職を防ぐ効果はあるのだろうか。人材・組織開発を目的とするアメリカの非営利団体「ATD(Association for Talent Development)」が主催した2019年のカンファレンス内の講演で、次のようなデータが公表されている。

新しく入社したアメリカのワーカーのうち
・22%は45日以内で辞める
・35%は6か月以内で辞める
・87%は6か月間仕事を続けられるか確認を持てていない
・69%はオンボーディングがよければ3年以上働く可能性が高い

さらに講演では、「新入社員のニーズ」と経営戦略上必要な「ビジネスニーズ」のバランスの重要性にも触れている。

企業規模が拡大して社員数が増えるにつれ、組織文化の定着やマッチングの難易度は必然的に上がっていく。そうした中でも両者のバランスがとれたオンボーディング・プログラムを実施することで、離職リスクの軽減につながると考えられる。

日本でオンボーディングへの注目度が高まる理由

欧米ではすでに定着しつつあるオンボーディングだが、日本で用いられるようになったのはここ数年である。そして、コロナ禍でリモートワークが本格化したことにより、改めてその存在が重要視されはじめている。

例えば、出社して対面で会話する場合と異なり、リモートワークでは必要最低限のコミュニケーションで済ませる場面も多い。しかし、業務上の疑問点はオンラインで解決できても、チームの雰囲気を知る機会や、直接関わりのない部署との接点は生まれにくくなってしまう。そのため、新入社員が会社に馴染むためにはこれまで以上のケアが必要となる。

2020年度は、緊急事態宣言と4月の入社シーズンが重なり、3密を避けるために多くの企業がオンラインでの新入社員研修の実施を余儀なくされた。オンラインでも新入社員の不安を取り除いてそれぞれのスキルを伸ばし、活躍できる環境をいかにして整えるか。その課題を解決するため、リモートワーク時代に適応したオンボーディング施策にも関心が寄せられている。

オンボーディングを導入するメリットと導入事例

では、オンボーディングの導入には具体的にどのようなメリットがあるのだろうか。離職防止からさらに掘り下げると、次のようなメリットが見えてくる。

・新入社員のエンゲージメント向上
・新たな人材採用に関わるコストの削減
・新入社員の短期間での即戦力化
・チームの結束力向上
・組織内での連携強化

新入社員が馴染みやすい環境を作るためには、社内でのミッションの共有に加え、スムーズに実施できる体制を整備する必要があり、実施中もチーム内はもちろん部署を超えた連携が欠かせない。そのため、オンボーディングをHRの仕事ではなく、全社員の仕事として位置付けている企業もある。

導入企業の具体的な取り組みとしては、主に次のようなものがあげられる。

1. 入社前面談・ウェルカムボード

中途採用の場合はオファー面談を経ての内定承諾が一般的な流れだが、それ以外に上司やHRとの入社前面談を実施する。その際に、今後の流れや具体的な業務内容などを伝えることで働く自分の姿をイメージしてもらい、入社後のギャップを防いでいる。また、チームのメンバーからメッセージを募ってウェルカムボードを作成し、新入社員を歓迎する企業も見られる。

2. メンター制度

直属の上司とは別に、年齢や社歴が近い社員がサポート役となる「メンター制度」を導入する企業も増えてきている。細かい社内ルールや人間関係など、上司に話しにくい悩みを相談できる相手を作ることで、不安解消や満足度の向上を図っている。

3. コミュニケーション支援

業務外でのコミュニケーションを活性化させるため、ランチ会や飲み会の費用を会社が補助するシステムもオンボーディングの一環だ。オンラインでは、ウェブ会議ツールを利用するケースも見られる。業務から離れた場での交流を通して結束力が強まることもあれば、他部署の人との出会いがキャリア設計のヒントとなり、モチベーション向上につながることも期待できる。

オンボーディングの効率化に役立つおすすめツール

限られた人員で手厚いサポートを行う上で役立つのが、効率化を助けるオンラインツールだ。オンボーディング以外にも営業研修やプレゼン、プロジェクト管理などに使えるものもあり、活用範囲はHR業務にとどまらない。

1. MotifyHR

人材開発を目的としたプラットフォーム「MotifyHR」は、従業員のエンゲージメント向上を支援するツールである。新入社員には、会社からのタスクなど必要な情報が適切なタイミングで届けられる一方、上司には人材育成に役立つ情報が定期的に配信される。

また、ツール上で1on1のログを残すこと、会社やチームに対するサーベイを実施することも可能。海外製のサポートツールが多い中、MotifyHRは日本企業が運営しているため使い勝手がよく、セミナーなどフォローアップが手厚いのも魅力である。

2. Kahoot!

Facebook社の研修にも取り入れられているのが、クイズ作成ツールの「Kahoot!」。もともとは教育現場で使われていたもので、学習の要素が強く、会社の歴史や社内ルールなどをゲーム感覚で楽しみながら覚えられる。

クイズの結果やランキングが公表されるため、場が盛り上がるのもメリット。一方通行になりがちな研修に意欲的に参加してもらいながら、必要な知識の習得を図りたい時におすすめだ。

3. Asana

アメリカ発のプロジェクトマネジメントツール「Asana」にも、オンボーディングのためのチェックリストが備わっている。新入社員の入社に向けて準備すべき項目がまとめられており、手動でのカスタマイズも可能。チームメンバー全員での使用を前提としているため、進捗が一目で分かるのも便利だ。

オンボーディングがメインの目的ではないものの、タスク管理なども含めてツールを一元化したい時にも有用である。

オンボーディングの効果をさらに高めるために

リモートワークの導入により社内のコミュニケーション不足が問題視される中、新入社員に対してはこれまで以上に丁寧で効果的なフォローアップが必要となる。その有効な手段となり得るオンボーディングは、今後さらに国内での存在感を増すと予想される。

オンボーディングを成功させるポイントの一つに、開始のタイミングがあげられる。45日以内に辞める社員が22%とのデータを紹介したが、入社後のギャップ防止は離職の抑制につながる重要なアプローチであり、入社前からの働きかけが成功を左右するとも言える。例えば、入社前面談やチームからの歓迎メッセージは、入社へのモチベーションを高める手段ともなり、比較的導入しやすいだろう。

また、入社後の研修で新たなツールを導入するのは難しくとも、例えばすでに社内で使われているzoomのシャッフルルームを使って他部署とコミュニケーションを図るなど、今あるツールを活用するのもおすすめの方法だ。

オンボーディングに関する取り組みは、新入社員だけではなく全社員の離職を防止する施策にも通じる。メンター制度の継続や定期面談の実施、タスク管理ツールの活用など、入社直後に限定しない長期的なサポートもまた、社員の定着と優秀な人材の確保につながるのではないだろうか。

この記事を書いた人:Anna Onishi

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