ABW導入でよくある6つの失敗
アクティビティ・ベースド・ワーキングの基本的な考え方について整理した前編に続き、後編では導入に動く企業が陥りやすい失敗6つを取り上げる。
Culture
リモートワーク推奨下で、場所に縛られない働き方としてさらなる注目を集めるアクティビティ・ベースド・ワーキング。Worker’s Resortでは、その創設者であるVeldhoen + Companyのアジア地域のマネージング・パートナーを務めるヨランダ・ミーハン (Iolanda Meehan) 氏に取材した内容を2つの記事に分けてお送りする。
アクティビティ・ベースド・ワーキングの基本的な考え方について整理した前編に続き、後編では導入に動く企業が陥りやすい失敗6つを取り上げる。「アクティビティ・ベースド・ワーキングを実践してみたが社員に浸透せず、上手く機能しなかった。」そんな失敗の多くは誤解によって生まれているとミーハン氏は語る。彼女のコンサルティング経験の中で多く出会ってきた「6つの失敗の素」とは一体何か。
1. アクティビティ・ベースド・ワーキングを導入する目的が明確にされていない
アクティビティ・ベースド・ワーキングが話題というだけで取り入れた結果、ビジネス戦略と紐づいていないケースは多々ある、とミーハン氏は語る。これは結局「オフィス変革」だけであって、組織課題の解決やさらには組織変革というレベルにまでは達しない。
イノベーションの活性化や、組織のサイロ化(蛸壷化)の解決、採用力強化に従業員のウェルビーイング改善など、企業がそれぞれ抱える課題は異なる。それに加えて、働き方改革による「労働時間短縮による生産性の向上」に必要な解決策の模索が多くの企業に課題としてのしかかる。アクティビティ・ベースド・ワーキングは、単なるレイアウト変更としてではなく、このような具体的課題の解決を支える戦略として導入することが重要である。
2. マインドセットの変化が不完全で、自由な働き方を認めきれず、社員を監視するためにオフィス出社を強制させる上司や同僚からの圧力が存在する
たとえ上記のように作業内容に合わせた空間が用意され、社員が自由に働く場所を選択できるようになったとしても、組織全体を通して本質的なマインドセットや行動の変化ができていなければ空間は使われない。集中スペースやリラックススペースがあっても、その利用に否定的な上司や同僚からの圧力があれば、せっかくのオフィス投資も無駄に終わる。
従来の日本企業では、社員を信頼し、自主性を重んじることよりも、サボっていないか「監視」する傾向が強く、この課題が特に浮き彫りになるケースが多い。新しい働き方への「理解」や社員への「信頼」の有無が大きく左右するのである。
3. 社内でロールモデルがいない
企業全体で新しい働き方に変わる意志があるにもかかわらず、ロールモデルや成功事例が近くにないが故に社員が戸惑ってしまう企業もある。「この課題の根幹はリーダーシップにある」とミーハン氏は話す。誰かがリーダーシップを発揮して社内での見本となり、自ら成功体験を増やしていく必要があるという。「新しい働き方を得るというのは、新しいスキルを得るのと一緒。誰か見本となる人が近くにいれば学びは一気に加速する」と付け加える。
4. 十分な移行期間を設けずに失敗と判断する
「変化」に対して柔軟な人もいれば、ある程度の時間を要する人もいる。何かを学ぶ際に十分な時間を設けずに「うまくいかなかった」と早急に判断する人は時にいるが、アクティビティ・ベースド・ワーキングに対して高い期待を抱くあまりその結果に急ぐ企業にこそ、この傾向が特に見られるという。「時間がかかる人こそ失敗から学ぶプロセスが大事である」ことを理解した上で、アクティビティ・ベースド・ワーキングに全社員が順応するためにはある程度の時間を設ける必要がある。
「家」の例をまた挙げると、料理にこだわる人はキッチンに充実した調理具や材料を取り揃えるが、そもそもそれらを取り揃えるに至った確固たる理由に加え、料理の技術やレシピを学び、自らを”シェフ”に成長させる熱意やマインドセットの変化が必要で、それには時間も求められる。つまり、このような成長はキッチンをリノベーションでもしたすぐ次の日に起こるようなことではないのである。オフィスも同様で、「オフィス」という環境でのコラボレーションやリラックスの仕方、さらに重要なタスクの優先順位の付け方や成果重視で働く方法を学び、それに慣れなければならない。「準備するのはスペースだけではない」と強調するミーハン氏はさらに続けて「最も大きな変革は企業全体におけるマインドセットとカルチャーの部分で起きなければならない」と付け加える。