ログイン

ログイン

シリコンバレーのオフィス専門家たちが語る2019年のトレンド | WORKTECHレポート

シリコンバレーのオフィス専門家たちが語る2019年のトレンドについて、3つのポイントに絞って紹介する。

Culture

3

10月29日、アメリカで今年3都市目となるWORKETCHがサンフランシスコで開催された。先日ロサンゼルスとニューヨークで開催されたイベントのレポートでも説明した通り、WORKTECHは世界の20以上の都市で開催される働き方・ワークプレイス関連のカンファレンスだが、その内容は開催先の都市で大きく異なる。今回のWORKTECH SFはテクノロジーとイノベーションの街・サンフランシスコで開催されたもので、革新的なオフィスを生み続けるGoogleやFacebook、Appleといった巨大テクノロジーが集まるシリコンバレーのオフィス関係者も多く参加・登壇した。

今回はそこで語られた内容の一部を紹介。関係者たちが語った、シリコンバレーを含むサンフランシスコ・ベイエリアで進む最新オフィストレンドを3つのポイントに分けて触れる。

1. オフィス環境のテストを常に行うAirbnbとUber

1つ目のポイントは、ベイエリアのオフィス担当者たちがオフィス環境において常にテストを行いながら改善を続けている点だ。

カンファレンス内の1セッションで、2017年3月からAirbnbの不動産チームを牽引するティム・クラーク (Tim Clark) 氏とUberでワークプレイス兼不動産テックチームのシニアマネージャーを務めるジェレミー・ コプスタイン (Jeremy Kopstein) 氏が対談。ベイエリアを代表する著名スタートアップ2社のオフィス担当者が自社での取り組みについて語る貴重な機会となった。

対談の中で、2人はパイロットオフィスや社員からのフィードバックデータが今日のオフィスづくりにおいて肝になるものだと強調。「ユーザーが欲しがりそうなオフィスを想定してデザインする時代は終わった」と語るコプスタイン氏は、仮説をもとにデザインしたオフィスの中で積極的にセンサーを活用し、データを集めながら定期的にオフィスを作り変えているという。一方で、在籍率や会議室のセンサーリングなど得られるデータは現在多様化しており、扱い方を間違えると逆に意思決定の妨げになる要素にもなりかねない。そのためデータを扱う前には必ず使い方の整理を行い、「決断をサポートする材料」として取り扱うべきと注意を付け加えた。

またクラーク氏が務めるAirbnbは、社内に自社専属の10人程度の建築士を抱えるというベイエリアでも特殊な取り組みを行なっている。彼らは社内のデザイン部署に属し、世界中にある全ロケーションのオフィスを担当するため、テストで得られた知見を社内で蓄積することができる点は大きなメリットだと語った。


Airbnbのオフィス

トロントに完成したばかりのUberオフィス

テストできる環境と同時に必要とされるResiliency(復元力・回復力)

またテストできる環境を用意するのと同時に必要なのが、万が一テストオフィスが機能しなかった時に空間を元どおりにできる、またはつくり直せる「復元力・回復力」だという。テストでつくってみたオフィス環境が仮説の通りに機能しないこともよくある話だと語るコプスタイン氏。そのときにそのまま放置せず、すぐに原状復帰できる余裕を持たせておくことも必要であるようだ。

特にAirbnbのように急成長を遂げる企業では、要件整理の段階で想定していた組織・チームが施工完了頃には人材の増加や入れ替えなどの理由でまったく違うものになっていることもある。ある程度の柔軟性を空間に保ちながら、企業の最新の状態に合わせられるようにすることがシリコンバレーの急成長企業に求められていることの1つだった。

2. ストーリーテリングの手法で歴史を整理するNikeとMcDonald’s

2つのポイントは、すでにブランドを確立した企業が新オフィスで新たなスタートを切る際、それまでの成功の歴史の背景にある「人」重視のストーリーをオフィスデザインに混ぜ込み、企業ブランドの世界観を表現し直す点である。

”When Giants Start Fresh(巨大企業が新たに仕切り直すとき)”と冠したセッションでは、世界的に著名なサンフランシスコ発のオフィスデザイン事務所で、2017年にはクーパー・ヒューイット・デザインアワードを受賞したStudio O+Aのメンバーが登壇。ブランド・ディレクターを務めるエリザベス・ヴェレカー (Elizabeth Vereker) 氏とデザイン・ディレクターを務めるミンディ・ウィッチマン (Mindi Weichman) 氏の2人が世界的なオフィスデザイン事例となったNikeとMcDonald’sのオフィスについて担当した本人自ら解説を行なった。

すでに確立したブランド力を持つ大企業がオフィスを一新する際、新たに企業理念やカルチャーを表現する方法の1つとして、企業のこれまでの成功の裏にある一従業員の工夫や歴史的なできごとをデザインに組み込むことが多いという。しかし、その組み込み方にも工夫が必要で、歴史のストーリー性を感じさせる「ストーリーテリング」が鍵になると2人は説明した。

このストーリーテリングには、話の聴き手をストーリーの中に巻き込む力があるという。別セッションでコミュニケーション手法におけるストーリーテリングについて語ったデイビッド・ファース (David Firth) 氏曰く、ストーリーが存在することで聴き手はその話の中に自分の役が存在すると自然に把握し、その演じる役を理解するために耳を傾ける。オフィスの例で言えば、企業の歴史にストーリー性を包含させることで、そこで働く社員や訪れた外部の人間が「今私たちがこのオフィスにいるのはこれらの成功があるから」と自分ごとのように感じられるようになる、というのだ。

ファース氏の言葉をさらに借りると、社員に何かを伝えたり訴えかけたいとき、”ナレッジ”だけでは人は揺れ動かないという。つまり従来の社内ブランディングを強調したオフィスにある「企業ロゴを貼り並べただけ」の手法ではなく、ストーリーを掘り起こし再現することがブランド力と歴史を持つ企業が行うオフィスデザイン手法だとStudio O+Aの2人は語った。

2016年に完成したNikeのオフィスは、製品の在庫が積み上がっていた以前の空間が一新され、ブランドやカルチャーの体現を目的としてデザインが施されている。「人」フォーカスのNikeブランドを表すために、アスリートを意識させるランニングコースや、人々の日常にあるスポーティさを表現するストリートアートを採用。オフィスのいたるところにはアスリートの成功の瞬間を押さえた写真が数多く並べられている。またNikeブランドのデザインの根幹にあるストーリーやデザイン手法そのものをそのままオフィスに投影した。


McDonald’sのオフィスでは、以前だとプライベートオフィスが多く、楽しさ・フレッシュ感に欠けていた以前の空間になっていた。今日の働き方にそぐわなかったオフィス環境をつくり変え、さらに同社の成功を支えた1従業員の工夫や会社の歴史をオフィスの細部に混ぜ込み、ストーリー性を持たせた。

3. オフィス改革を牽引する3つの業界

3つ目のポイントは、多くの業界で働き方・オフィス改革が進む中でも特に取り組みが顕著な業界が見えるようになってきたという点だ。テクノロジー業界はIT人材の激しい獲得競争で勝つために最もオフィス環境に力を入れる業界として知られているが、それ以外にもホテルなど高い顧客サービスを提供する業界やコンサル・法律事務所など高度な専門職の業界も挙げられるようになった。

アメリカで施設向けにユニフォームレンタルや食品提供のサービスを展開するAramarkと、WORKTECHのナレッジ収集部門であるWORKTECH ACADEMYが共同で、人材分析を中心に働き方やオフィスのトレンドを発信するWorkXPレポートの第1版を今回のWORKTECH SFに合わせて刊行。来場者には無料で配られ、データを用いた独自の分析結果を披露した。WORKTECH内のセッションでは執筆者たちが特に興味深いポイントをピックアップし、説明を加えた。

彼らの行なった分析の1つが、業界ごとのオフィス構築度合いである。数ある分析元の1つとしてLinkedin、Glassdoor、Fortunegがそれぞれ毎年発表する”Best Place to Work”のランキングを取り上げた。

それぞれ異なる企業がランク入りを果たしたが、その中で3つの業界が働きやすさにおいて顕著な取り組みを行なっているという傾向を確認することができたという。それが次の3つである。

①テクノロジー企業

他業界とは異なり著しく働きやすさを追求する業界。人材獲得競争が最も激しいテック業界では今も革新的なオフィス環境づくりが進む。特にクパチーノに完成したAppleの新社屋”Apple Park”やマウンテンビューにできたばかりのGoogleの新キャンパス、Facebookが進めるWillow Parkなどがオフィスの新しい基準を作り出している。またキャッシュ力に余裕を持つSalesforceやAirbnb、Uberといった企業もサンフランシスコ市内で都市型のオフィスを展開し、潤沢な福利厚生制度を設けている点も挙げられる。

②高い顧客サービスを提供するホテル、小売、航空業界

日々高い顧客体験を提供するホテルや小売、航空業界は日々の業務からユーザーニーズの拾い上げを得意とし、自社社員に対しても数多くの選択肢や、便利さ、高度なサービスを提供することに長けている。特にこのような業界は日常の業務からセンサーなどの最新テクノロジーを活用しセールルデータなどを見て日々サービス改善を行うことに慣れているため、そのノウハウをオフィス環境にも活かすことができる。また顧客と近い距離のビジネスを展開していることから、人材多様性への理解も深く、ダイバーシティ&インクルージョンを徹底している姿勢が従業員から支持を高く得ているポイントになっている。

航空業界のSouthwest Airlinesやスポーツウェアの小売を展開するLululemon、ホテル業界のHiltonといった名が挙がるのはそういった背景がある。

③コンサル・法律事務所など高度な専門職業界

法律事務所やコンサルなど高度専門業界は競合同士の競争が激しく、また顧客に対し適切に対応できる従業員を強く求める傾向が顕著に表れる業界である。テクノロジー業界と同じく人材獲得競争が激しく、競合他社間の人材流動が起こることも珍しくない背景から、企業の存在価値や目的をオフィスを通じて社員に伝えようと取り組む企業が多い。また高いストレスがかかる仕事であることからも、給料面以外に社員の待遇を良くする目的として職場環境を整える企業がほとんど。Boston Consulting GroupやDeloitteといった企業は、フレキシブル・ワーク・プログラムなどを積極的に従業員に提供している。

これらの特徴を踏まえながら、アメリカ国内の業界を働きやすさに取り組んでいるレベルごとに7つの層に分けたものが下図になる。”TIER 7”はオフィス環境や福利厚生に最も投資を行う業界が集まり、テクノロジー企業やSNS企業が該当する。”TIER 1”はいまだに十分な投資が行えていない業界が集められており、政府や行政法人、公共セクターなどが該当。図の見方として、左側には各TIERに該当する業界や投資額、右側には提供する福利厚生やオフィスサービスが並べられている。自社のオフィス環境を考える際、業界的にどの程度投資を行うべきなのか参考になる点が興味深い。

オフィス環境・働きやすさへの投資レベルをもとに業界7つの層に分けたピラミッド図(Work XPレポートより)

今回挙げた3つのポイントは、イベントで語られた内容のほんの一部に過ぎない。他にも空間が人に与える影響を研究する「神経建築学」やオフィスにおけるテクノロジーの活用方法などオフィス・働き方に関する多岐にわたる分野についてトークが広げられた。Worker’s Resortではこれらの海外情報をこれからも積極的に配信していく。

この記事を書いた人:Kazumasa Ikoma

Culture

3