フランス発アプリ「Workwell」がオフィスビル満足度の向上にこだわる理由
今秋日本に上陸するワーカー向けアプリのWorkwell。フランス発のスタートアップが1つのアプリを通じてどのように働く場を変えていくのか、来日中の共同創業者と日本支社長に話を聞いた。
Facility, Technology
今日最先端とされるオフィスは、「社内での提供サービスの充実化」と「テクノロジーを駆使した働く環境の効率化」の2つに支えられている。「社内での提供サービスの充実化」で言うと、社員が自由に食事を摂れる社員食堂の設置や朝食サービスの提供、ジム・ヨガ教室の導入や保育施設の設置など、ワーク・ライフをより良くさせるものが挙げられる。特にGAFA企業が持つコーポレートキャンパスで取り揃えられているあらゆるサービスはその良い例だ。
また「テクノロジーを駆使した働く環境の効率化」という面では、会議室の予約や空調の自動管理、ランチの宅配予約に照明の調節など、IoTを活用した働きやすい環境の整備が進む。上に挙げた提供サービスを社員が効果的に使えるようになるのも、オフィスのスマート化が進んではじめて実現するものである。
このような次世代オフィスのトレンドがある中で、今大きな期待を集めているのが今回注目する「Workwell」だ。同サービスを導入したビルやオフィスではスマートフォンのアプリ1つで、オフィス会議室の予約からエアコンの操作、出勤・帰宅時のライドシェアのシェア相手探しに、ランチの宅配予約まで可能になる、というもの。このサービスを通じて、オフィスビルのあり方、そして人々の働き方はどのように変化するのか。Workwell共同創業者のポール・デュピュイ(Paul Dupuy)さん、そして日本支社長の金英範さんに取材を行った。
働く人の活動支援を1つに集約したアプリ
あらためて説明すると、Workwellは働く人のあらゆる活動を支援するためにフランスのスタートアップが開発したサービスだ。
ユーザーとなる従業員は、アプリから企業規則の確認や会議室予約、オフィスでの問題箇所の報告、イベント・社内グループの連絡、オフィス(ビル)周辺のお店の検索に、地域限定クーポンの検索など、オフィス社内とその周辺地域にあるサービスを活用することができる。さらに最近では、その日のランチのメニューを確認できる機能やオフィスのフロアマップの表示する機能、また不動産企業側がテナントの依頼に対する作業進捗を表示する機能なども追加された。
要は、働く人のコミュニティづくりを支えながら、オフィスビル内または周辺にあるサービスの有効活用を促し、働く人のワークライフにおける総合的な体験を向上させるというもの。すでに市場には会議室予約やランチの手配ができるアプリがあるものの、それぞれ別々のアプリを使い分けなければならず使いにくいという課題があり、そのための解決策という立ち位置が人気の理由の1つとなっているようだ。Workwellが自ら「オールインワン・アプリ」と自信を持って展開するアプリである。
Workwellでは現在これらの機能を利用することができる
開発の原点は「コミュニティづくり」
利用できる機能が今も増えているWorkwellだが、このサービスの原点にはもう1人の共同創業者、マリー・シュニーガン(Marie Schneegans)さんがもともと始めたNever Eat Aloneというアプリがある。
Never Eat Aloneは社内で一緒にランチをする仲間を見つけてくれるサービス。スイスの世界最大級の金融グループとして著名なUBSで彼女がインターンとして勤めていたとき、部署を問わず多くの人とランチをしたいと考え開発したアプリだ。大企業に所属する社員ほどランチを1人で済ませる人は多く、同僚との交流機会が失われてしまう。アプリは社内の風通しを良くしたいと考える企業を中心に話題を呼び、数年前に多くのメディアでも取り上げられた。
WorkwellはそんなNever Eat Aloneを背景に、ランチ以外にも社内のコミュニケーション促進や企業文化の醸成のきっかけをつくりたいというマリーの思いから生まれたサービスだ。さらにアイデアは発展し「社員のワークライフが充実する機能も加えたい」という意向もあって、多くのサービスを集約するアプリという現在の形を取っている。
ちなみにポールがマリーと共に共同創業者として参画した経緯も興味深い。ポール自身はもともと画家としての経歴を持ちながら、その後Eコマース系のスタートアップを含む複数の企業を立ち上げた経験も持つ。そんな仕事熱心のポールが金曜日の夜のパーティの時でも遊ばず仕事に没頭していた姿を見て、マリーは真剣に向き合えるパートナーとして彼とのWorkwellの創業を心に決めたという。同サービスがポールのような仕事に一生懸命に向き合えるワーカーのワーク・ライフを支えるために生まれたというのも理解ができる。
大手不動産企業への導入実績を次々と積み上げるWorkwell
Workwellはオフィスビル全体から企業オフィス1つへの導入まで様々対応が可能だ。
導入先の不動産企業には大手の名前が多く連なる。ヨーロッパ最大の不動産企業で、2017年には世界最大級のショッピングモール「ウェストフィールド(Westfield)」の買収を行ったウニベイル・ロダムコ・ウェストフィールド(Unibail-Rodamco-Westfield)は、同社が持つオフィスビルのエンドユーザーの職場生活が「より充実したものになる」ことを目指してWorkwellとの提携を決めた。ビルに高品質なデジタルプラットフォームを導入することで、テナントやそこで働く従業員の幸福度の向上が期待できると強調している。
アメリカの大手不動産企業であるハインズ(Hines)もWorkwellを導入した企業の1つであり、所有する大規模ビルへ順次展開している。テナント向けのアプリが乱立する中、彼らのニーズに応えるためのソリューションを1つに集約したサービスとして同サービスに注目し、導入決定に至ったという。同社のシニア・バイス・プレジデントのリサ・ニュートン(Lisa Newton)氏は、テナントたちが仕事とプライベートの両立で多忙を極める中、それを落ち着かせるために役立つツールだと語っている。実際に同社のテナントが求める「bed-to-desk(ベッドからデスクにいたるまで)」のサポートを探していたところ、Workwellに出会ったという背景があるようだ。
オフィスビルを持つ不動産企業にとって、Workwell導入の意味は今のオフィストレンドから見て非常に大きい。先日のWORKTECHの記事でも触れたが、多くの企業は優秀な人材の獲得に向けて自由な働き方や洗練されたオフィス環境を整える傾向にあり、不動産企業はこのようなニーズを押さるためにWorkwellのようなサービスを自社不動産に積極的に導入している。またアプリはビル内で働く人と周辺地域のレストランやその他ビジネスをつなげることから、周辺コミュニティにも見栄えの良いサービスとして映るのである。
ちなみにWorkwellはビル全体だけでなく企業1つからの導入も可能。実際にフランス・パリにあるWorkwell本社でも1年半以上、約25人の社員たちの間で利用されている。実際に会議室やヨガ教室の予約やオフィス内で壊れている備品等の報告はもちろんのこと、ランチの手配や同僚の誕生日を祝うイベントの連絡、テニス・サッカーに興味のあるグループの運営、さらにコンサートチケットの販売まであらゆる活動がアプリ上で行われている。自社オフィスで独自にサービスを充実させたい企業ほど、導入の効果は大きいだろう。
パリにあるWorkwellの本社。サービスを実際に活用して改善点を洗い出し、「使いやすいアプリ」を目指す。
日本市場に参入する目的とは?
実はこのWorkwell、今秋ついに日本に上陸する予定だ。しかしなぜこのタイミングなのか。それはポールが2018年夏に初めて日本を訪れた際、企業が次々と従来の働く環境を刷新し、ワークプレイスの変革を行う様子を目の当たりにしたからだという。ワーク・ライフについて意識が高まっている今だからこそ、日本でも多くの人を支援できると考えたのだろう。
一方で、日本のオフィス環境の課題も同時に彼の目に映ったようだ。オフィス内で提供されるサービスは徐々に充実度が増しているものの、そのサービスへのアクセスはまだ容易ではなく、従業員が積極的に利用できる環境が整っていないとポールは語る。さらに、オフィス関連のテクノロジーツールのユーザービリティはフランスやアメリカを含め世界的に低いとされているが、その問題は日本だと深刻であるとポールは懸念している。日本の労働環境を改善するためには、エンドユーザーである企業従業員にとって使いやすく、デザイン性の高い製品を増やすことが重要だと彼は考えている。
この取材に同席した日本支社長の金英範さんも、ヨーロッパでワークプレイス関連のアプリをたくさん見てきた経験の中で、日本にこのようなアプリは必要だと感じていたという。外資系金融企業や日本の大手自動車会社の総務として25年以上もの間、日本での職場環境の課題改善に向けて取り組み続けてきた金さんにとって、改善が見られつつある今の日本の環境をさらにもう一押しするためにWorkwellは高い可能性を秘めていると、同サービスの高い価値を印象付けた。
今後の展開に向けて
日本でも人によって仕事とプライベートの塩梅が異なる時代に突入しているが、効率的な働き方は全員に共通して求められる。プライベートの時間をある程度確保したい従業員はもちろん仕事の時間を効率よく過ごしたいだろうし、仕事熱心な従業員にとってもそれは同じ。「効率性」が日本の働き方における1つのキーワードになればなるほど、Workwellの存在価値は高まりそうだ。
現在では様々な機能を持つWorkwellが元は人と人をつなげたいという創業者の思いから始まったのは先に説明した通り。リモートワークやABWの浸透で必ずしも人がオフィスで仕事をしない環境になっても「オフィスにいる時には人との偶然の出会いを促し、そこで良い経験を得られるように貢献できるツールを作っていきたい」とポールは語った。今日の企業がオフィスに求める意味と重なるところがあると筆者は感じた。
これからも多くの不動産企業との提携や一般企業への導入が進むであろうWorkwell。企業ミッションである「従業員が職場でより幸せに、そしてよりつながりを感じられるように支援すること(”to help employees feel happier and more connected at work”)」がどのような形で表現されるのか。日本での今後が楽しみだ。
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