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オフィスワーカーの腰痛や運動不足に向けて「体を動かす」コンセプトで作られた事務椅子

オフィスワーカーにとって悩みの腰痛や肩こり、そして運動不足。これまでの事務椅子とは異なるアプローチで開発された「体を動かす」コンセプトを持つ事務チェアを紹介します。

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座り続けることは体に悪影響をおよぼす

長時間椅子に座り続けることにより生ずる、肩こりや腰痛。腰に負担をかけない座り方を習得している達人であれば話は別かもしれないが、一般的にデスクワークを主とする人は、遅かれ早かれこの悩みに直面するケースが多い。

WHOも座り続けることは害であるとし、警鐘をならしている。座りっぱなしが体に悪いことは理解しているが、仕事上、座る時間が長くなるのを避けられず、腰痛や肩こり、運動不足などの問題を抱えている人は決して少なくないはずだ。

座り続け防止のために普及したスタンディングデスク

「Sedentary Death Syndrome(座り続けることが死につながる症候群)」という病名を聞いたことがあるだろうか。この衝撃的な病名は、世界中のオフィスワーカーに衝撃を与え、欧米を中心とした企業のワークスタイルに大きな変化をもたらしてきた。

ヨーロッパでは1990年に発令されたEU指令(加盟国に対して目的の達成を求めるもの)によって、昇降式デスクの普及が進み、デンマークやスウェーデンなどの北欧諸国では大半の企業で導入されていると言う。

こちらはスウェーデンに本社を構える企業の日本オフィス。本国での働き方が日本のオフィスにも反映されている。

また2018年には、カリフォルニア州クパチーノにあるアップル本社「Apple Park」で、「全従業員のデスクを100%スタンディングデスクにした」とCEOのティム・クックがインタビューで語っている。

アメリカでは企業に留まらず、小学校でもスタンディングデスクの導入が行われているケースがある。これまで一般的であった常時着座から、立つと座るを使い分けるスタイルが、学びの段階から身につく環境が整えられつつあるのだ。

まだまだ長時間の着座を見かける日本のオフィス

長時間の着座を回避する方法としては、スタンディングデスクの導入だけが全てではない。業務の合間に休憩を兼ねて体を動かす、数十分に一度必ず立つようにするなど、ちょっとした工夫で体の負荷を軽減するように努めている人も多いだろう。これらの施策が世界中のオフィスで啓蒙されているとは言いつつも、まだまだ日本のオフィスでは長時間の着座シーンを多く見かける。

20ヶ国の成人(18〜65歳)49,493人を対象とした調査によると、台湾・ノルウェー・香港・サウジアラビアおよび日本の成人が、最も着座時間が長いと報告されている。また注目したいのが、デンマークやスウェーデンと同じ北欧にあるノルウェーがこちらに名を連ねている点だ。同国はEU非加盟国のため、前述したEU指令の影響がないと考えられる。いかに国の政策が健康に大きな影響を与えるかがわかる。

日本国内の話に戻すと、数年前まで通常のデスクと昇降機能付きデスクでは価格に大きな差があった。そのため検討の土台に乗りづらかったのだが、オフィス家具メーカーの株式会社オカムラが、天板を自由に上下できる昇降デスク「Swift」を販売したことをきっかけに各メーカーが低価格化を図ったことで、企業での導入例が増えていった。

オカムラのSwift(画像は株式会社オカムラのWebサイトより)

しかしこれまでの慣習的なものに加え、EUのように国や地方自治体からの後押しがないため、一般に浸透するまでにはまだまだ時間がかかりそうだ。となると、長時間の着座でいかに体の負担を減らせるかが鍵になってくる。そこでおすすめなのが、これから紹介する事務椅子だ。

体の負担を減らすワークチェア

これまでの事務椅子は、リクライニング機能である前後の動きを有するものが多くを占めてきた。しかし近年、腰痛や肩こりといったオフィスワーカーが抱える問題に対して、少し異なる角度で製品を開発する動きが出てきている。

コクヨ株式会社の「ing(イング)」

コクヨの「ing」は、「座るを解放する」というコンセプトのもと、座っている状態でも体の動きに合わせて360度揺れ動く、イノベーティブなイスだ。

画像はコクヨ株式会社のWebサイトより

コクヨによると、「ing」に座って揺れながら4時間のデスクワークをするだけで約1.5kmのウォーキングに相当する運動効果があることや、創造的で有用なアイデアの発想数が13%アップするなど、体や脳に良い影響があるという実験結果を公表している。

Nowl Styl社の「Xilium(シリウム)」

ポーランドのオフィスファニチャーカンパニー 「Nowy Styl」のワークチェア「Xilium」は、従来の前後の動きに加え、X-MOVEという独自の機構によってサイドの動きを可能としている。

画像はNowy StylのWebサイトより

またヨーロッパの人々の平均身長が祖父母の年代と比較して11cm伸びているリサーチ結果をあげながら、身長や体重など、それぞれに異なる体型や座り方に着目。幅広い調整オプションを使用することで性別や体型に関わらず、多くの人に適応することができるとしている。

Wilkhahn社の「ON(オン)」「IN(イン)」「AT(アット)」

これらの「体を動かすチェア」を語る上で、パイオニア的な存在として忘れてはならないのが、ドイツ・ハノーバー近郊のバッドミュンダーに本拠地を構える「Wilkhahn(ウィルクハーン)」だ。同社は10年間にわたる研究成果をまとめた「Office for motion」で、身体活動をより多く、オフィスワークに取り入れる重要性を説いている。

同レポートでは腰痛や肩こりなどの筋肉・関節の疾患が、長時間デスクの前に座っていることによるとしている。さらに、ストレスフルな状態のときこそデスクの前でコンピュータ画面を見つめ続けなければならない状況を引き合いにだし、「身体を動かさなければ、人間が生来身につけている、ストレス解消のメガニズムがうまく機能しません。運動不足からストレスが解消されない状態が続けば、免疫系が弱まり、本来の調整機構が乱れ、結果うつ病に繋がることもあり得ないことではありません」と、長時間の着座が及ぼす精神的な影響についても訴えかけている。

三次元シンクロメカニズム「トリメンション」(画像はウィルクハーン・ジャパン株式会社のWebサイトより)

このようにオフィスの中での動きの重要性を製品開発のベースに置く同社が、ドイツ国立ケルン体育大学と協働し、5年の歳月を経て独自に開発したのが、ワーキングチェアのリクライニングをコントロールする三次元シンクロメカニズム、「トリメンション」だ。人間の関節の動きをモデルに設計されたトリメンションメカニズムは、前後、左右に加え、それらを組み合わせた回転運動も実現しており、ユーザーの体の動きに追従するよう設計されている。

このトリメンションメカニズムを有したチェアが、Wilkhahnの「ON」「IN」「AT」だ。

ON(オン)(画像はWilkhahnのWebサイトより)
IN(イン)(画像はWilkhahnのWebサイトより)

AT(アット)(画像はWilkhahnのWebサイトより)

早稲田大学スポーツ科学学術院の川上泰雄教授はウィルクハーン・ジャパン株式会社のWebサイトで、「座った状態でも体幹や骨盤の可動性が確保されるため、ONに座りながら適度な運動を行うことによって、 骨盤周りの筋肉のストレッチ効果やほぐし効果が期待できる」と「ON」の効果検証の結果を述べている。

家具選びとあわせて意識も変えてみては

ここまでオフィスでの身体活動についてこだわる同社が、休憩時間のストレッチや終業後のフィットネスではなく、日々の業務プロセスの中で実践できる効果的なヒントを「Office for motion」の中で共有しているので、最後にいくつか紹介したい。

会議は座ってするもの、という固定概念からはなれて、立って会議をしてみましょう。

時折立ち上がらなければならないように、必要な機器や資料を分散させて下さい。

建物の最短ルートがいちばんよいルートではありません。いちばん遠回りしてみましょう。

トレーニングやワークショップの会場を誰かに設営してもらうのをやめましょう。

最初は少し不便に感じるところもあるかもしれないが、長い人生で健康な体を維持して働くことを目的とすれば、その不便さも魅力的に感じることだろう。

この記事を書いた人:Shinji Ineda

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