ABWからRBWへ? オフィスを“関係性”の拠点に

「人のつながり」「協働(コラボレーション)」「文化」が企業で求められる中、オフィスプランニングの新しいコンセプトとして、「実際に何をするか」よりも「職場で誰と関わるか」に重点が置かれている。
Facility, Design, Culture
デザイナーは今、ワークプレイスをプランニングする上で、何を基本理念とすべきなのか――。
さほど遠くない昔、答えは簡単だった。効率が最優先の目標だったので、ワークスペースは合理的な工場ラインの原則に沿って設計され、デスクが整然と並び、すべてを見渡す管理者の監視下に置かれていた。
その後、人間的な要素と社会的相互作用を優先する方向で再考がなされ、オフィスを工場ではなくコミュニティと捉える考え方へと見直された。設計の焦点は、それまでの「フォーマル(形式的)な管理」から「形にとらわれないインフォーマルな人のつながり」の支援へと変化し、多目的スペースや近接性を重視したオフィスレイアウトのプランニングへと切り替わっていった。
やがて、グローバル化の進行やデジタルな知識労働の発展とともに、ビジネスの目的と人間的なニーズを両立させるワークプレイスデザインの第3の波が現れた。オフィスはよりアジャイルな働き方の拠点となり、ネットワーク時代の企業はワークプレイスデザインのモデルとして、アクティビティ・ベースド・ワーキング(ABW)を採用するようになった。
人とのつながりを軸にしたワークプレイスデザイン
ABWとは、協働作業から個人作業まで1日の中でさまざまなタスクに関して、職場内で場所を変えながら遂行できるように多様な業務環境を提供するもので、設計の基本理念として現在も人気を博している。
だがもし、「職場で何をするか」ではなく「誰と関わるか」という分析に基づいてオフィスがデザインされていたらどうだろうか? あるいは、「アクティビティ」をベースにしたデザインではなく、職場における「人と人のつながり」を基礎とするオフィスプランニングだとしたら?
それが「リレーションシップ・ベースド・ワーク(relationship-based work:関係性に基づく働き方)」(以下、RBW)の考え方である。これはワークプレイスデザインにおける新たな視点で、必ずしもABWに取って代わるわけではないが、「人のつながり」「協働」「文化」を重視する企業がますます増える中で、オフィスデザインの新たな地平を開くものだ。この言葉は、世界的家具メーカー・MillerKnollが生み出した造語である。
MillerKnollのグローバル・リサーチ&プランニング担当バイスプレジデントであるライアン・アンダーソン氏は次のように述べる。「ワークプレイスデザインの基盤として、アクティビティを見るだけでは十分とは言えない。われわれの調査と最近の取り組みから得た知見は、すべて“リレーション(関係性)”に帰結する。企業のCEOたちは、よりよい文化を求める。従業員は親しい同僚とビデオ会議では得られないつながりを持ちたいし、しばらく会えていなかったチームの人たちと再び交流したいとも考えている。また、マネージャーやリーダーとも、より有意義な時間を過ごしたいと望んでいる」
協働、信頼、感情的知性が共存するオフィスに
RBWの考え方は、協働、信頼、感情的知性が共存する環境として職場を再構築する。MillerKnollでは、環境心理学の要素を取り入れて、「場所への愛着」や「絆の強さ/弱さ」を検証しながら新しいモデルを考案し、デザインアプローチを作り上げた。
戦略的な枠組みとして見れば、RBWはこれまでにもあったさまざまな要素の寄せ集めともいえるだろう。例えばこの考え方は、1950年代にドイツのQuickbornerのコンサルティングチームが提唱したビューロランドシャフト(Bürolandschaft:オフィスランドスケープ*)の概念を想起させる。これは、「誰と誰がコミュニケーションをとっているか」というネットワークの研究に基づいたオフィスの設計手法だった。
- * 家具や観葉植物、背の低いパーティションなどを用いてオフィスフロアをゆるやかに仕切るレイアウトのこと。高さのある間仕切りがないため、開放感のあるオフィス空間をデザインできる。
だが、ビューロランドシャフトはコミュニケーションネットワーク理論の重要性を認めながらも、当時の慣行だった狭い空間設計やその技法に縛られていた。今日ではワークプレイスデザインの根幹として、関係性をサポートするための文化的慣習やテクノロジーが幅広く存在している。MillerKnollのコンセプトがこれほど魅力的かつ知的に映るのはそのためだ。
「オフィスを関係性の拠点に再構築するのは、理にかなっている」
もうひとつ別の理由もある。AIによって多くのルーティンワークや反復作業が自動化された今、人々はクリエイティビティや問題解決能力、対人スキルなどを必要とする仕事にますます注力するようになる。こうした状況を考えれば、オフィスを関係性の拠点として再構築し、「協働」、「メンタリング」、「コミュニティづくり」、「ピアツーピア学習」(学習者同士で対話などを通じて主体的に学び合う学習法)などの目的でデザインされた空間を重視することは、理にかなっているといえる。
Gallupの最新調査によると、米国で「職場で尊重されている(treated with respect)」と強く思うと回答した従業員は過去最低を記録し、わずか37%に落ち込んでいる。これは「大いなる分離(the great detachment)」と呼ばれ、従業員エンゲージメントの低下を表すものだが、職場での関係性の構築にフォーカスしてデザインすることで対処できる可能性がある。
RBWは、2025年に注目すべきデザイン設計コンセプトとして本格的な広がりを見せるのか? 急速な進化を続けるオフィスデザインにおいて、いくつかの重要なポイントを押さえていることは確かだ。
リレーションシップ・ベースド・ワークは、WORKTECH Academyの最新レポート「The World of Work in 2025」に取り上げられた25のトレンドのひとつである。
- ジェレミー・マイヤーソン氏はWORKTECH Academy会長、英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アートのデザイン科名誉教授。共著書にUnworking: The Reinvention of the Modern Office
※本記事は、Worker’s Resortが提携しているWORKTECH Academyの記事「Will we switch from activity-based to relationship-based working?」を翻訳したものです。