座席レイアウトの科学。多様性の有無がフリーアドレスの効果を左右する
世界中のオフィスでフリーアドレスに移行するトレンドが見られる一方で、英国のリサーチ会社Leesmanが行った新しい調査は誰もが変化を受け入れる用意ができているわけではないことを示している。重要なのは、多様な環境だ。
Facility, Design
Leesmanの新しい調査によると、オフィスにおけるフリーアドレスの採用は過去4年間に20%と急伸している。これはハイブリッド勤務とフレックス制度の台頭に伴うトレンドだが、フリーアドレスへの移行は慎重に検討する必要がある。
Leesmanの最新レポート「The Value of Variety」(多様さの価値)は、指定席対フリーアドレスが何を意味するのか、それが働く人の体験にどう影響するかを探っている。レポートの基になっているのは、2021年第3四半期から2024年第1四半期の間に世界の1,591の職場の40万人を超えるオフィス勤務者と在宅勤務者を対象に集めたデータだ。
現在、調査回答者の87%がハイブリッド勤務、残り13%はまったく出社しない(4%)か週5日オフィス勤務(9%)で、ハイブリッド勤務の63%は週に1日から3日出社する。このような移行が起きていることから、数多くの企業が不動産戦略を見直し、回答者の3分の2が今後18カ月のうちにオフィススペースを25%以上削減する計画があるとしている。
世界の概況――半数以上の職場がフリーアドレスを導入
フリーアドレスは、オフィスのダウンサイジングを目指す企業にとっては当然の帰結であり、期待できるコスト削減効果から不動産担当者には好まれるが、Leesmanのレポートはこの動きが果たして常に戦略的なものなのか、単なるコストカット策なのかを問うている。
調査対象の職場の半数以上(54%)が主にフリーアドレスを採用している。これは世界の地域によって異なり、先頭を切るのは81%がフリーアドレスというオセアニアで、それにヨーロッパ(68%)、アジア(37%)と続く。最後の北米でのフリーアドレスは35%にとどまる。
Leesmanが指定席とフリーアドレスのオフィスの体験スコア(Lmi*)を比較したところ、指定席のオフィスのスコアの方が若干高いことが判明した(指定制100点中69.6点、フリーアドレス席(100点中68.2点)。次に、フリーアドレスを多様な座席配置がある場合とない場合の2つのグループに分けると、全体の中で最も良いスコアを示したのは多様な座席配置が用意されていたグループで、体験スコアは72.8点だった。
このレポートは、多様であることの重要性を浮き彫りにしている。インフォーマルな共同作業や雑談、クリエイティブな作業のためのスペースなど、多様な座席配置のある環境は、他の用途の選択肢がないフリーアドレスのみの環境に比べて一貫してスコアが高い。
- * オフィス体験の良し悪しを測る指標。スコアが高いほど従業員の評価が高いことを示す。
オフィスレイアウトの注意点
Leesmanの調査は、生産性と従業員満足度の最大化を図るオフィスレイアウトのための重要な点として、以下を挙げている。
■従業員を理解する
従業員の仕事の内容を理解し、それに合わせてレイアウトをデザインする。例えば、指定席は資料を広げたり1人で集中したりする作業に都合が良い。一方のフリーアドレスは、インフォーマルな交流やクリエイティブな協力作業を促す。
■想定を疑う
指定席は出社に対する見返りと見なすことができるが、多様なフリーアドレスは、働く誇りや楽しみ、生産性を高めるという点で、少なくとも同等の――もしくはそれ以上の――メリットがある。
■うまく実施できていないケースに注意
フリーアドレスをうまく実施できない場合、従業員のディスエンゲージメント(意欲低下)を招きかねない。このような環境の従業員の3分の1が、仕事に対して意欲を持とうとしない「妨害者」に分類される。
多様性のあるフリーアドレスの効果
適切に実施された場合、多様なスペースを用意したフリーアドレスは従来の指定席に比べ、いくつかの重要な領域でより良い効果を挙げることができる。
■誇りと楽しみ
72%が職場に訪問者を連れてくるときに自慢できると感じ、77%が職場環境を楽しいと感じている。
■休憩と交流
80%が休憩スペースに満足し、89%がインフォーマルな交流の機会を高く評価している。
■生産性
職場に対して最も肯定的な認識を持つ群は、職場環境のおかげで生産性の高い仕事ができると回答し、92%が高い満足度を示している。
Leesmanは、フリーアドレスを検討している組織に対し、極めて重要な点を指摘している。多様なスペースを用意できない場合、フリーアドレスはデメリットがメリットを上回る可能性がある、という点だ。うまく実施できた場合にはフリーアドレスは平均スコア72.8点の「優れた」体験を生み出せるが、うまく考えられていない場合は、生産性、満足度、エンゲージメントの低下を招く恐れがある。
職場が進化を続けていく中、焦点はシンプルなコスト削減策から多様なワークスタイルの本格的なサポートと充実した従業員体験の醸成へと移っていく必要がある。多様な環境に重点を置き、従業員のニーズを理解することで、組織はハイブリッド勤務とフリーアドレスという複雑な状況に自信を持って対応できるようになる。
多様さの価値に関するLeesmanの最新の調査はこちら。
※本記事は、Worker’s Resortが提携しているWORKTECH Academyの記事「The science of seating: how variety drives employee experience」を翻訳したものです。