ログイン

ログイン

砂糖工場から最新のオフィス空間へ。Domino Refineryが描くニューヨークの新たな風景

1856年に設立された砂糖工場が再開発を経て、ブルックリンの新たなランドマークとして生まれ変わった。425,000平方フィートのオフィススペース、リテール、住宅、そして公共空間を含む大規模な複合用途施設へ変貌を遂げたDomino Refineryが示すアダプティブ・リユースの実践と、魅力的なオフィスデザインを紹介する。

歴史が息づくDomino Refinery

米ニューヨーク・ブルックリン地区のウォーターフロントに位置するDomino Refineryは、1856年に設立されて以来、長年にわたりDomino Sugar社(現在は、精製糖企業グループASRの傘下ブランド)の砂糖製造の中心地として活躍してきた。この工場は地域の産業発展に寄与し、その煙突から立ち上る蒸気はブルックリンのスカイラインの一部として親しまれ、多くの人々にとって身近な存在となっていた。

しかし、産業の変化に伴い工場は次第に衰退し、2004年に閉鎖。役目を終えしばらくの間手つかずの状態だったが、閉鎖から3年後には、その歴史的な価値が評価され、ランドマークとして指定された。その後、ニューヨークの建築会社SHoP Architectsとランドスケープ建築のJames Corner Field Operationsによる再開発計画が始動。2023年9月には、ニューヨークを拠点とする建築・都市設計事務所Practice for Architecture and Urbanism(以下、PAU)が主導した再開発プロジェクトが完了し、Domino Refineryは新たな息吹を得ることとなった。

この歴史的な産業遺産は、425,000平方フィートのオフィススペース、リテール、住宅、そして公共空間を含む大規模な複合用途施設として生まれ変わり、ブルックリンにおける新たな経済的・文化的ランドマークとして注目を集めている。本稿では、砂糖工場からランドマークへと変貌を遂げたDomino Refineryが示すアダプティブ・リユースの実践と、魅力的なオフィス空間を紹介する。

アダプティブ・リユースが生み出す、時を架橋する比類なき空間

Domino Refineryの再開発は、ブルックリンのリバーサイド再生における重要なマイルストーンの一部であり、産業遺産を現代的な機能空間に再構築するアダプティブ・リユースの優れた事例として関心を集めている。

レンガの殻に宿る、新たなガラス空間

設計を手掛けたPAUは、改修プロセスの戦略として、歴史的なレンガ造りの外観や煙突といったランドマーク的要素を保存しながら、新しい建物を既存の外殻内にネスト(挿入)する革新的なアプローチを採用した。15階建ての新構造は、全面にガラスを使用。旧構造と新構造の間に10〜12フィートのギャップを設けることで、既存の壁や窓を活かしつつ、理想的なオフィス空間としての標準的なフロア高を確保した。この結果、内装の窓や仕切りが既存のアーチ型窓に干渉せず、マンハッタンやイーストリバーの美しい景色を楽しむことができる。また、自然光が内部に深く差し込み、開放感あふれる空間を生み出している。

旧Domino Sugar社砂糖工場の外殻
既存建築の外殻内に新しい建物を挿入するアプローチが採用された

■緑と共に育む新たな環境

Domino Refineryの再開発において、バイオフィリックデザインは象徴的なデザイン要素となっている。既存の建物と新たな構造の間には、クレーンで搬入された高さ30フィートの17本の木々や地域固有の植物が配置され、建物内部に自然豊かなエコシステムを形成している。また、建物前に広がるパブリックプラザは、オフィスと自然を緩やかにつなぎ、周辺環境を巧みに取り入れたオフィス空間を実現している。

■地域とのつながりを醸成する

建築の改修だけでなく、テナントや地域住民、観光客が自由に利用できる開放的な空間として機能するパブリックプラザをはじめ、地域とのつながりを重視した包括的な計画が進められた。特に1階部分では、既存の窓を改修して通路を設け、隣接する通りからリバー沿いの公園まで歩行者が自由に行き交えるように配慮されている。この開かれたデザインにより、建物は周囲の環境へ自然に溶け込み、コミュニティとの結びつきを強化している。

Domino Refineryとつながるリバー沿いの公園

持続可能性を追求する先進的な建築

効率的な全電動機器を使用する機械システムを備えたDomino Refineryは、二酸化炭素排出量を実質ゼロに抑える設計が施された、市内でも数少ない建物の1つだ。敷地内には排水を再利用する独自のシステムが導入され、都市インフラの負担を軽減しながら、イーストリバーの水質改善にも貢献している。新築ビルをコアとしたアダプティブ・リユースならではの利点を最大限に活かした持続可能な建築であり、人や環境に配慮した建物を評価する国際認証制度「LEED(Leadership in Energy & Environmental Design)」でゴールド認定が見込まれている。

テナントニーズに寄り添うオフィス環境の提案

Domino Refineryは、その独自のネストアプローチにより、歴史的な建物の魅力を最大限に引き出しつつ、広々とした柱の少ないフロア設計や、約13~15フィートの高天井を実現。ガラスファサードの窓は開閉可能で、明るく開放的な空間を演出している。

■テナントの選択肢を広げる2種類のオフィススペース

Domino Refineryのオフィススペースは、小規模企業向けの即入居可能なPre-Built Office(2,500~5,000 RSF*¹)と、最大33,257 RSFの広さをもつ柔軟なフロア設計のFull-Floor Officeに分かれている。ホームページでは、Pre-Built Officeのレイアウトだけでなく、Full-Floor Office向けのテストフィット*²も掲載。各テナントがどのようにオフィススペースを活用できるかを事前に検討する手助けとなり、企業や働く人々の多様なニーズに応える、効率的で快適なオフィス環境を提供している。

■ペントハウスのプレミアムな体験

建物の最上部には、アメリカのラウンドアーチスタイルの建築にインスパイアされたガラスのアーチ型天井が新たに設けられた。このスタイルは、かつての砂糖工場が盛んだった19世紀中頃から20世紀初頭頃の建物に多く見られ、柔らかく温かみのある印象を演出している。

ガラス天井に覆われた北側の最上階には、オフィステナント専用のペントハウスラウンジがあり、マンハッタンやイーストリバー、ノースブルックリンを一望できる360°のパノラマビューを楽しみながら、仕事や会議を行うことができる。また、バリスタステーションやバーも完備されており、クリエイティブなコラボレーションが生まれる場として機能している。

最上階の南側には、ファッションショーやコンサート、バンケットなど多様なイベントに対応できる、7,500平方フィートの広さを誇るイベントスペース「Vault」が配置されている。壁を回転させることで空間を自在に区切ることができ、複数のイベントを同時に開催したり、一部をオフィスアメニティとして活用できる柔軟性も備えている。

■快適なアクセスと利便性

建物内には、7基の高速エレベーター、24時間のデジタルアクセスコントロール、荷物用の大型エレベーターを完備し、快適な移動と効率的な物流を実現している。また、自転車専用の入口や駐輪スペースも設けられ、環境に優しい通勤方法にも対応。周辺の交通網や隣接するリバー沿いの公園へのアクセスも良好で、自然環境と都市機能のバランスを調和させている。

■インセンティブサポートの活用

Domino Refineryでは、一定の条件を満たす入居テナントに対し、財務上のメリットやインセンティブを提供している。例えば、ブルックリンに移転する企業は、従業員1人あたり最大3,000ドルの助成金を受け取れる「Relocation Employment Assistance Program (REAP)」や、ブルックリンのオフィステナントが商業賃貸税を免除される「Commercial Rent Tax (CRT)」、さらには最大25年間の固定資産税が減免される「Industrial & Commercial Abatement Program (ICAP)」などの制度を利用することができ、専門チームがその申請と承認をサポートしてくれる。

Domino Refineryが体現する未来の働き方

Domino Refineryの再開発は、旧工場をブルックリンの象徴的なランドマークとしてよみがえらせるだけでなく、地域コミュニティとのつながりを深め、持続可能な未来に向けた新しいアダプティブ・リユースのあり方と働き方を提案している。このプロジェクトは、歴史を大切にしつつ現代のニーズに応えるアプローチを採用しており、その成果は他の地域や建物にも広がる可能性を秘めている。

柔軟性、持続可能性、そして地域社会との融合を重視したこの取り組みは、未来の働き方の指針となり、ブルックリンの新たなシンボルとして成長し続けるだろう。

この記事を書いた人:Chinami Ojiri