リゾート地にサテライトオフィスを! リゾートオフィスのメリットと企業事例
自然を満喫できる地域にサテライトオフィスを構える「リゾートオフィス」。リゾート地にオフィスを設けることのメリットと、リゾートオフィスの国内事例を紹介する。
Facility
リゾートオフィスへの注目が高まっている
自然を満喫できるリゾート地にサテライトオフィスを構えることを指す「リゾートオフィス」。旅先で仕事をするワーケーションと同様のリフレッシュ効果が得られ、さらに社内コミュニケーションの促進やチームビルディングにも貢献するものとして期待が寄せられている。ザイマックス不動産総合研究所が2022年12月に行った「大都市圏オフィス需要調査 2022秋②働き方とワークプレイス編」によると、地方でのワークプレイス展開に興味を示す企業が最も高い関心を示した施策は「リゾート地で一時的に働けるワーケーション施設を整備・利用する」(52.1%)であった。地方で新たな拠点を考える企業において、リゾート地にオフィスを構えることへの注目が高まっていることがうかがえる。
画像はザイマックス不動産総合研究所のWebサイトより
本記事では、企業がリゾート地にオフィスを構えることのメリットを考察し、実際にリゾートオフィスを構えた企業の事例から、個性あふれる各オフィスの狙いについて紹介する。
リゾートオフィスのメリットは?
リゾートオフィスと同様に非日常のロケーションで仕事をするワーケーションについては、すでにいくつかの調査が実施され、その効果が認められ始めている。株式会社NTTデータ経営研究所が2022年、自社が提供するワーケーション制度について行った調査によると、ワーケーション期間中の仕事の生産性は、実施前よりも約20%向上していた。さらに、向上したパフォーマンスの水準は1週間後も継続しており、ワーケーションを実施したことで仕事のパフォーマンスに良い影響が出たことが示されている。
画像は株式会社NTTデータ経営研究所のWebサイトより
また、「自然が創造性に与える影響:デンマークのクリエイティブ専門職を対象とした研究」と題された論文では、自然は創造的な思考を高め、アイデアを発展させるときに必要な集中力を充電するのに役立つことが示されている。
こうした生産性や創造性の向上のほかにも、リゾートオフィスによって得られると思われるメリットを、ワーカー・企業・地域の3者の目線から以下に挙げる。
・ワーカーのメリット
自然のなかで働くことによるリフレッシュ効果やウェルビーイングの実現が期待できる。都会のオフィスとは異なる環境下でコミュニケーション促進やチームビルディングに役立ち、イノベーションにつながる可能性もある。福利厚生の享受やワークライフバランスの改善から、組織に対するエンゲージメントの向上につながる。
・企業のメリット
アフターコロナに対応する新たなワークプレイスが構築できる。BCP(事業継続計画)対策としての拠点分散となる。従業員エンゲージメントの強化による離職率の低下、採用活動におけるPRとなり、条件を満たせば地域からの助成金が得られる場合もある。
・地域(リゾートオフィス所在地)のメリット
遊休資産の有効活用になる。進出企業による雇用創出が期待でき、地場企業とのコラボレーションによる地域活性化、地域と企業による新たなコミュニティ形成、観光シーズンにかかわらない通年での経済活性化につながる可能性もある。
リゾートオフィスは一般的に、都市部の企業が地域特性の強い地域に設けることが多いものだ。新しい土地に外部者がオフィスを設けるという構造上、ワーカー側も企業側も「地域へのメリット」について配慮しておきたい。
リゾートオフィスの最新事例
「ワーカー・企業・地域にとって‟三方よし”」といえるリゾートオフィスだが、実際のところ、どこにどのようなオフィスが構築され、運営にはどういった工夫がなされているのか。国内4社の事例をみていきたい。
1. 地域コミュニティや他社とのコラボレーションも見据えた「アステリア株式会社」
企業内のデバイス間を接続するソフトウェアを開発・販売するアステリア。東京都渋谷区に本社を構える同社は、2023年7月、VUCA(不確実性)時代に適応した新たなオフィスとして長野県の軽井沢町にリゾートオフィスを新設した。
軽井沢オフィスのエントランス(画像はアステリア株式会社のプレスリリースより)
自然豊かな場所にある同オフィスは、社員であれば誰でも自由に利用することが可能。視界230度のワイドスクリーン「ハーフムーンシアター」などの最新映像機材も設置され、自然とテクノロジーのハイブリッドな環境となっている。より高い次元での働きやすさと生産性を追求することがねらいだ。
ハーフムーンシアター(画像はアステリア株式会社のプレスリリースより)
また同オフィスは、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社が運営するコミュニティハブ「Karuizawa Commongrounds」の一角に位置している。同コミュニティの一員としてコラボレーションも図りながら、社員だけでなくビジネスパートナーやDX推進に注力する企業・自治体が集うオフィスをめざしているという。
さらに、同オフィスは‟地産地消型”のサステナブル仕様で、建築資材の半分以上が長野県産の木材や石材だ。また、太陽光発電を設置することにより、晴天時にはオフィス内で利用する電力の最大100%をまかない、発電量が消費電力より多いときには、Karuizawa Commongroundsのメンバー企業へ電力を提供するエネルギーシェアリングも行っている。
長野県産の木材や石材をふんだんに使用した土間サロン(画像はアステリア株式会社のプレスリリースより)
避暑地として知られる軽井沢の魅力が従業員に与える効果はもちろん、拠点を構える地域の経済や環境、人材交流の機会創出にも一役買おうとしている同オフィス。巻き込んでいく関係人口が自ずと多くなる構想であるため、有機的なコラボレーションが図れれば、自社のビジネスに加え地域への貢献も大きくなるはずだ。
2. リゾートオフィスに本社を移転した「SENA株式会社」
営業資料作成などのマーケティング・広報活動サポートを手がけるSENA。同社は2020年7月、静岡県の伊豆半島にある南伊豆町のシェアオフィス「コミュニティスペースきよりや」にリゾートオフィスを開設した。
きっかけは2020年5月に、クリエイターと中小企業の経営者をつなげるサービス「スポカン会議」をリリースしたこと。このサービスは「地域企業の課題を解決に導く」をコンセプトとしており、リリースにあたり代表の生畑目星南(なばためせいな)氏が南伊豆町の役場職員と交流をもったことで同地に縁ができた。
伊豆半島の南端に位置する自然豊かな南伊豆町(画像はSENA株式会社のプレスリリースより)
南伊豆町は、面積の70%以上が山林や原野で、メインの産業は観光業や農業。リゾート地として人気がある一方で、交通インフラの不足による不便さや少子高齢化など、地域ならではの課題も多く抱えている。前役場職員は同社に、営業資料作成代行などを通して「良き伴走者として地域の方々を支え続けてほしい」と期待を寄せている。
SENAはリゾートオフィス開設から3年後の2023年に、本社を神奈川県横浜市からこのリゾートオフィスに移した。移転の理由は、縁あって想いを寄せてきた南伊豆町に納税でも貢献し、町内で活躍する企業のひとつとして認知度を上げていきたいからだとしている。
リゾートオフィスから本社となったコミュニティスペースきよりや(画像はSENA株式会社のプレスリリースより)
リモートワークが普及して以降、地方自治体では移住者支援やコワーキングスペースの設置などを進めるところが増えている。特に中小企業や小規模事業者がリゾートオフィスを設置する際には、リゾート地にある公共のシェアオフィスやコワーキングスペースを利用するのも一案だ。初期投資を抑えることができるほか、リゾートオフィスを訪れることでその土地が気に入れば、小回りの良さを生かしてリゾートオフィスを本社にすることも可能になる。
3. 人材育成拠点として地域人材の採用も行う「株式会社Relic」
続いて紹介するのは、リゾート地に設けられた民間のサテライトオフィスビルを活用した事例をだ。新規事業開発やイノベーション創出を支援するRelicは、羽田空港から約1時間の距離にある和歌山県の白浜町にあるワーケーション施設「ANCHOR」内に、国内4番目の地方拠点として白浜オフィスを設置した。
カウンター席の窓からは海と山が見える(画像は株式会社Relicのnoteより)
現地ではイノベーター人材やIT/DX人材の採用・育成に注力。自然あふれるリゾート地のサテライトオフィスをワーケーション拠点とすることで、より柔軟で生産性が高く、クリエイティブな仕事の実現をめざしているという。
リゾートオフィスだからこそのコミュニケーション(画像は株式会社Relicのnoteより)
白浜オフィスは主にインサイドセールスとカスタマーサクセスメンバーの拠点となっている。拠点長は、和歌山県出身のビジネスクリエイション事業部所属の社員。東京の外資系保険会社に勤務したのち故郷にUターンし、白浜オフィス進出を計画していた同社と出会い合流に至ったそうだ。
リゾートオフィスは、企業にとっては主に都市部から地域への進出の機会となる。一方、該当地域に居住する人にとっては、愛着のある地元にいながら、地場企業以外の企業で働く機会にもなり得る。都会からのUターンやIターン希望者の受け皿や、優秀な人材の獲得という効果もリゾートオフィスには期待できそうだ。
4. リゾートオフィスから新規事業を展開した「冒険社プラコレ」
最後に、リゾートオフィスが新展開につながった事例を紹介する。結婚式のチャットプラットフォーム「PLACOLE WEDDING」などを運営する冒険社プラコレ。同社は2016年の創業当時からリモートワークを導入し、自社が開発したメタバースオフィス「ViKet Town」を本社としている。
「オンラインで繋がりながら、オフラインでは自由な場所で働く」という方針を掲げ、メタバース空間で交流しながら、六本木・恵比寿・青山などさまざまなエリアのコアワーキングスペースを活用してきた。さらに2021年、神奈川県鎌倉市の由比ヶ浜にリゾートオフィスを開設。鎌倉は少し歩けば海にも山にも行ける自然豊かな環境であり、「働く=大変」というイメージを「働く=楽しい」に変えたいと考えていた同社の思いに合致した。
しかし同社は2022年6月に、そのリゾートオフィスを「お花とドレスと紅茶のお店 DRESSY ROOM&Tea カフェ」に転換。同社が展開するウェディングアイテム総合通販サイト「PLACOLE & DRESSY」の世界観に基づき、誰もがウェディングドレスやウェディングのキラキラした空間に癒されるリアル店舗を構築したのだ。
画像はDRESSY CAFE KAMAKURAのWebサイトより
リゾートオフィスを構えることで土地勘ができた場所で新規事業を実践するのは、全く縁のない場所でのチャレンジよりもハードルが低い。リゾートオフィスは観光地としても人気が高い場所に置かれることが多いため、集客面やPRにおいてもメリットが大きいといえるだろう。
土地への敬意をもって“三方よし”のリゾートオフィスを
地方には都心にはない価値がある。自然環境はもちろん、その土地に生きる人や組織との出会いもかけがえのない財産になり得る。リゾートオフィスというと“非日常”のイメージがあるかもしれないが、そこで日常を暮らす人たちへの敬意と土地への感謝を忘れないことが重要だ。地域への貢献も視野に、“三方よし”のリゾートオフィスを検討してみてはいかがだろうか。